『これが最後の仕事』



そんな流れ込んできた声と共に姿を消した桜鬼。

戸惑う咲をボクは、金色の鳥で桜鬼の元へと誘っていく。
今のボクには、アイツが大切に思う存在を片時も傍から離さないようにすることだけだと思えたから。





我名は和鬼。

国主と桜鬼神、双樹を継ぐ者。


我民の安寧を厭い【いとい】その旅立ちを誘う。

……紅葉……。

汝が旅立ちを祝福しよう。
親友の元へ






再び歌声にもとれる、響きの韻が周囲を包み込むと
辿り付いた時には、紅葉と言う少女は桜鬼の腕の中でぐったりと倒れ込んだ。


そして桜鬼もまた、少女を抱きとめたままその場で崩れ落ちていく。





……咲……幸せに……。







最期の声と当時に、桜鬼が使っていた剣が風化していく。

紅葉の姿も風化して……咲の泣き声が響く中、
桜鬼の姿も薄れていく。



『旅立つのか……桜鬼神……』



雷龍たちの声が響く。




間に合わなかったのかと……後悔が押し寄せた時、
雷龍たちは咲へと再び問いかける。



『咲、汝が願いは聞き届けられた。
 新たな国王の誕生に我らより祝福の加護を』



暫くの間の後、雷龍たちは声を揃えて告げる。



それと同時に雷龍の指から次々と迸った雷光が
桜鬼の体内へと吸い込まれて消えて、焔龍の炎が桜鬼と優しく浄化していく。

そして最後に、蒼龍の水に抱かれるように彼は空高く昇って
この世界から姿を消した。




『国王たる咲が命ずる。

 桜鬼神・和鬼。
 汝が魂を解放する』




少女の声が凛と力強く響き渡った。



消えていく龍神たちの姿。


それと同時に、
ボクは崩れ落ちた桜瑛を抱きとめる。


そしてその後、膝をついて呼吸を整える飛翔と
同じくその場で座り込む柊の方へと駆け寄る。