悲痛な心と愛情が、渦のように押し寄せてくる。
押し寄せた想いを感じながら、桜鬼が崩れていくのをボクは捉える。
両足を開いて、ボクは体を支えるように踏ん張ると
そのまま金色の鳥へと、消えゆく想いを再び乗せていく。
*
『咲、気が付いて……ボクだよ……。
和鬼だよ……』
*
その時、ボクの背後で再び雷が轟く音と共に閃光が舞い落ちる。
ボクの目ではっきりと見て取れる雷龍の姿。
白髪の長い髪に、額に龍の刻印を宿す存在は
飛翔の傍へと降臨する。
隣に立つだけで、今のボクには吹き飛ばされてしまいそうな強い力で……。
その雷龍の金色の瞳とエメラルドの瞳が、
ボクの視線を捕える。
「雷龍翁瑛、どうか力をお貸しください。
ボクはあの桜鬼神を助けたい。
桜鬼と咲をお救いください」
必死に祈るように告げる言葉。
その意を受け止めるように、龍の姿へと変えて
真っ直ぐに、金色の鳥の方へと雷龍は消えていく。
その後、流れ込んでくるのは雷龍・蒼龍・焔龍。
それぞれの御神体の龍が顕現して、
咲と言う少女の魂をゆっくりと浄化していく。
『汝が求めし世界は優しい。
だが優しさだけでは、
人は育たぬ。
己が道を歩き、
壁を超えて突き進む故に
人の魂は輝きを放つ』
咲に言霊を投げかける、雷龍の声が
ようやく……ボクにしっかり感じることが出来た。
『人が育みし世界。
優しいだけでは、
決して思わらぬ
闇の焔(ほむら)に操られし世界。
人は己が闇に迷い込み
出口を見つける為に
自らを追い込んでいく。
それ故に放たれる、
命の炎は輝きとなって
汝に関わるものを包み込む』
『水の流れは絶えなるもの。
慈雨に育まれし人の子よ。
人に優しい水も、
時に人に禍をなすように
この地に住まう人もまた
過ちを繰り返しながら
時を刻む。
それ故、放たれる
水の調べは
人の心を揺さぶり
輝きを放ち、慈愛に満つる』
焔龍・蒼龍ともに言霊を紡いで、
咲の心は目覚めていく。
桜鬼の優しさに包まれて。
桜鬼が守りたかった少女はこれで助けられる。
次に守るべき存在は、桜鬼。
あのバカ野郎だっ。
咲と言う少女の心を助けて、桜鬼の元に駆けつけた時には
すでに桜鬼は疲れ果てて何時、その生を終えてもおかしくないような様だった。
覚醒した咲が桜鬼の名を呼びながら駆けつけていく。
咲が紅葉と対峙して必死に桜鬼を守ろうとしている。
そんな咲からボクたちが指文字を操るように、何かを描くと桜鬼は咲の胸元から刀を抜き取る。
その姿がボクには幻想的で、心の中に深く刻まれていく。



