「お母さま、お母様は見届けて。
 今の『さくら』は私なの。

 これは『さくら』として本当の意味で、ご当主を支える最初のお仕事なの。
 
 桜瑛、柊佳さま、そして先代ご当主の名代である飛翔さま」



暁華がそう言って紡ぎあげると、一気にアイツの表情が真剣なものへと変わっていく。



「ご当主、貴方の望みを……」

「ボクの望み……。

 ボクの望みは桜鬼神の魂を救いたい。
 その為に、皆の力をかして欲しい」  


ボク自身の決意を告げるように、皆の前で言霊にしていく。



「ただいまの言霊に、ご協力を賜る皆さまはご賛同頂けますでしょうか?」


更に暁華の言葉が話を進めていく。



「生駒隠し神子、徳力柊佳【とくりき とうか】。
 一族の宝玉、蒼龍氷蓮と共に賛同いたします」

「秋月の一族の名代として、火綾の巫女・秋月桜瑛。
 共に賛同いたします」



火綾の巫女?
桜瑛……アイツ、何時の間にそんな役割になったんだ?


湧き上がる疑問と共に、ボクの視線は最後に隣に控える飛翔に注がれる。



「最後に飛翔さまの意は?」

「先代当主、実兄・徳力信哉の名代、早城飛翔。
 現当主、徳力神威の意に添い見届けることを決めた。
 雷龍翁瑛宵玻の意も、兄に託されしこの札と共にあり」


飛翔はそう言って、当然のように人差し指と中指に札を挟んで告げる。



「契りは交わされました。
 古からの三柱の契りにより桜鬼神へと続く審判の扉を開き、
 この地と桜塚神社を繋ぎます。

 寝台をこちらへ」



暁華の言葉に、四つの寝台が運び込まれて四方を藁で結ばれた中へと
設置される。


「皆々さまは、こちらで旅立ちのお支度を。

 これより、この地は『さくら・徳力暁華』の名のもとに
 印を結び、現世から隔離してお守り致します」



暁華が宣言すると、そのままアイツは目を閉じて
その場に座り込み、ひたすらに何かを唱え始める。


その唱えられる言葉の響きはとても美しいのに、
この世の言葉ではないそんな言語。



やがてボクたちの意識は、眠りの奥へと誘われるように
寝台へ体を横たえると吸い込まれていった。







「神威、大丈夫か……」


ふいに肩を揺すられてボクは目を開ける。


そこは真っ暗な世界に、沙羅双樹の木が二つ。
 

「飛翔、桜瑛と柊は?」

「大丈夫、二人も無事だ。
 しかしこの場所は何処だ?」



この場所……。


ボクはゆっくりと意識を研ぎ澄ませて、
桜鬼へと意識を集中させていく。



ずっと辿り付きたかった、あの桜鬼の深層心理の中へと
暁華が入り込ませてくれたのかもしれないと思った。




「飛翔、柊、桜瑛、こっち。
 アイツが……泣いてる……」



そう言いながらもボクは、無意識のうちに指文字で何かを描いていく。



するとボクの掌からゆっくりと浮かび上がってくる金色の鳥。


その金色の鳥に向かってボクは生吹。
掌からふんわりと舞い上がった鳥は、真っ直ぐに一点を目指して羽ばたいていく。