「お母さま、お母様は見届けて。
今の『さくら』は私なの。
これは『さくら』として本当の意味で、ご当主を支える最初のお仕事なの。
桜瑛、柊佳さま、そして先代ご当主の名代である飛翔さま」
暁華がそう言って紡ぎあげると、一気にアイツの表情が真剣なものへと変わっていく。
「ご当主、貴方の望みを……」
「ボクの望み……。
ボクの望みは桜鬼神の魂を救いたい。
その為に、皆の力をかして欲しい」
ボク自身の決意を告げるように、皆の前で言霊にしていく。
「ただいまの言霊に、ご協力を賜る皆さまはご賛同頂けますでしょうか?」
更に暁華の言葉が話を進めていく。
「生駒隠し神子、徳力柊佳【とくりき とうか】。
一族の宝玉、蒼龍氷蓮と共に賛同いたします」
「秋月の一族の名代として、火綾の巫女・秋月桜瑛。
共に賛同いたします」
火綾の巫女?
桜瑛……アイツ、何時の間にそんな役割になったんだ?
湧き上がる疑問と共に、ボクの視線は最後に隣に控える飛翔に注がれる。
「最後に飛翔さまの意は?」
「先代当主、実兄・徳力信哉の名代、早城飛翔。
現当主、徳力神威の意に添い見届けることを決めた。
雷龍翁瑛宵玻の意も、兄に託されしこの札と共にあり」
飛翔はそう言って、当然のように人差し指と中指に札を挟んで告げる。
「契りは交わされました。
古からの三柱の契りにより桜鬼神へと続く審判の扉を開き、
この地と桜塚神社を繋ぎます。
寝台をこちらへ」
暁華の言葉に、四つの寝台が運び込まれて四方を藁で結ばれた中へと
設置される。
「皆々さまは、こちらで旅立ちのお支度を。
これより、この地は『さくら・徳力暁華』の名のもとに
印を結び、現世から隔離してお守り致します」
暁華が宣言すると、そのままアイツは目を閉じて
その場に座り込み、ひたすらに何かを唱え始める。
その唱えられる言葉の響きはとても美しいのに、
この世の言葉ではないそんな言語。
やがてボクたちの意識は、眠りの奥へと誘われるように
寝台へ体を横たえると吸い込まれていった。
*
「神威、大丈夫か……」
ふいに肩を揺すられてボクは目を開ける。
そこは真っ暗な世界に、沙羅双樹の木が二つ。
「飛翔、桜瑛と柊は?」
「大丈夫、二人も無事だ。
しかしこの場所は何処だ?」
この場所……。
ボクはゆっくりと意識を研ぎ澄ませて、
桜鬼へと意識を集中させていく。
ずっと辿り付きたかった、あの桜鬼の深層心理の中へと
暁華が入り込ませてくれたのかもしれないと思った。
「飛翔、柊、桜瑛、こっち。
アイツが……泣いてる……」
そう言いながらもボクは、無意識のうちに指文字で何かを描いていく。
するとボクの掌からゆっくりと浮かび上がってくる金色の鳥。
その金色の鳥に向かってボクは生吹。
掌からふんわりと舞い上がった鳥は、真っ直ぐに一点を目指して羽ばたいていく。