「由貴、朝には退院させて貰えると思うか?」

「さぁ、どうでしょうね。
 片っ端から人間ドッグだ、精密検査だって帰して貰えなかったらどうしますか?」

そんなことを言いながら笑いかける。

そんなことを言いそうな存在を一人思い浮かべて、
俺も思わず想像して苦笑いする。


「それは困るな……」

「だったら朝まででも見つかる前に、ベッドに戻って」


由貴の言葉に病室に戻ろうと立ち上がると、
そこには何時の間にか、背後に立って俺たちの会話を盗み聞いていた嵩継さんが仁王立ちしている。


「あっ、……たっ嵩継さん……」

「氷室、お前がついていながらどう言うことだ?
 早城、ぶっ倒れてたやつが何でこんな夜中に、自販機の前でお茶してやがる?
 就寝時間はとっくに過ぎてやがるぞ。
 とっとと寝やがれ。
 じゃないと希望通り、人間ドックと精密検査のフルコースにしてやろうか」


その声に思わず、逃げ出すように病室へと駆け込む。


駆けこんだ俺たちの病室に追いついた嵩継さんは、そのまま病室の中に入って来て
隣のベッドに眠る神威の状態を確認していく。


「おぉ、よく寝てるな。
 薬が効いてるみたいだ。

 氷室、お前も仮眠室で休め。早城も一度は目覚めた。
 後は大丈夫だろう。

 明日、こいつのER代わるんだろ。
 せっかくの貴重な休みを……だったら、寝れる間に寝ておけ」


そう言うと嵩継さんは問答無用で、由貴を仮眠室へと追いやった。


「お前さんもとっととベッドに入れ。
 勝手に点滴も抜きやがって」

「抜いたっていっても、もう殆ど入ってないですから」

「追加だ追加。
 どうせ、朝からまた無茶しやがんだろ。

 研修医ってのは結構過酷で、ただでさえ睡眠不足な生き物だが
 それ以上に二足の草鞋で駆けずり回ってるだろ。

 無理しなきゃいけない時が人生にはあるだろうけど、
 あんまりしなさんなよ」


そう言いながら嵩継さんは、再びポケットから取り出した新しい針で
俺の点滴をセットして病室から出ていった。


点滴の中身に一服盛られたことに気が付いたのはその後。


神威と同じように薬の力で落とされた
俺は翌日の昼を過ぎてようやく目覚めることが出来た。




すでに起きていた神威は、俺のベッドサイドで本を読み続けていた。




「よっ、神威。心配かけたな」

「別に……」




俺の言葉に返信するアイツの言葉は相変わらずで。



それでもアイツが心配していたのは、
昨日の由貴の情報からも、少し照れたような仕草をするコイツからも伝わってくる。




「えっと……キャビネットの上、安田って先生が朝から来た」



視線を向けるとそこには、嵩継さんの文字で綴られたメモが一枚。