そう言うとゆっくりと病室から這い出して、一番近くの自販機の前のソファーに座る。

ホットのブラック珈琲を注文しようとした俺は、
ミルク入りと微糖を先に選択されてしまう。


「今日の飛翔はこちらで。
 明日のERは私。明後日は史也が交代してくれます。

 後、神威君が私を頼ってくれたこと、凄く嬉しかったです。
 面識が乏しい私に連絡をしてくるのは、とても勇気が必要な行動だったと思います。

 そこは飛翔も、ちゃんと評価してあげてくださいよ。
 あんな小さい子に心配かけて、どうするんですか?

 貴方がちゃんと守ってあげるんでしょ。
 亡くなったお兄さんの代わりに」



由貴の言葉を聞きながら、口元に運び続けた缶の中身はすでに飲み干してしまっていた。



「あぁ、俺が守る」



そうだ……兄貴の代わりに、アイツは俺が守る。



そうは思っていたが……アイツを取り巻く環境は、
俺の想像以上に特殊なものになっている現実。




「なぁ、由貴。
 一人少女が眠り続けてる。

 その眠り続けている少女と全く同じ容姿をした少女が現れて、
 物理的に何かを起こしてくる」

「物理的にとはどういう事ですか?」

「俺も神威も物凄い力で首を絞められた」

「首を?」

「あぁ。
 最初、首を絞められていたのは神威だった。

 アイツを助けたくて、兄貴の護符を持った途端
 稲光みたいなものが、真っ直ぐに俺の中に轟いた。

 その瞬間、神威から首を絞めるターゲットは俺に変ったらしく、
 外からの強い衝撃に意識を失いそうになりながら、必死に抵抗を続けてた。

 その存在は、俺たちの首を絞めているにもかかわらず
 俺たちが触れようとしても、触ることすら出来ない。

 
 そんな現実、有り得ないだろう。


 意識を失う間際、兄貴の声が聞こえた気がしてな。
 兄貴と共に『宵玻招来』って声に出してた。


 多分……神威を守ることすら出来ない俺を、
 兄貴があっちから守りに来てくれたのかも知れないな。

『世話焼かせやがって』って文句でも言いながら」



記憶の中の兄貴を辿りながら、由貴に告げる。




「そうだとしたら、飛翔のお兄さんは二人のことが心配で
 溜まらなくなって、力を貸してくれたのかもしれませんね。

 お兄さんが守ってくれたから、飛翔も神威君も怪我一つしなかった。
 それは喜ばしいことだと思います。

 ただその……飛翔と神威君の首を絞めてきた存在が気になりますね。
 また襲ってこないといいのですが……」




由貴はそう言いながら再び、不安そうな視線を見せた。