「さて飛翔は安田先生にお願いしましたし、私も時雨もお腹空いてるんです。
 神威君も軽く食べませんか?」


その声に返事をするように、ボクのお腹はグーっと音を立てる。


「ふふっ、お腹は正直ですね。
 飛翔は大丈夫ですよ。後で飛翔の部屋に行きましょうね」


そう言いながら氷室さんは、ボクと金城さんを誘導するように病院内の食堂へと入っていった。


そこでハンバーグ定食をご馳走になった後、
飛翔が居るはずの病室へ歩いていく。


飛翔はベッドの上で、今も眠り続けていた。



病室には何人かの白衣姿の人たちが次から次へと顔を出しては病室を出ていく。



「あら、氷室先生そちらは?」

「徳力神威君。
 飛翔の甥っ子さんですよ」

「まぁ、どうぞ早城先生の近くで。
 今、早城先生と同期の先生たちが順番に様子を見にいらしてたんですよ。
 皆さま、もう仕事に戻られましたけど」

「飛翔は?」

「それは院長先生からお話を」


そうやって看護婦さんがその人の方に視線を向ける。



「神威君だったね。
 疲れてしまって君のおじさんは眠ってしまってるみたいだね。
 検査の結果は異常はなかったから、今は目が覚めるまで待っていようね。
 
 神威君も少し疲れているかな?
 飛翔と一緒に、ここで休んでいきなさい。

 水谷君、後は頼んだよ」


そう言うと院長先生と紹介されたその人は、ボクにお辞儀をして病室を出ていく。



「さて隣のベッドに今からお布団敷いておくからね。
 神威君もゆっくりと休むといいわ。
 おじさんのことは、ちゃんと私たちが見ているから安心しなさい」

「えぇ。
 飛翔のことは私が監視しておきますから、神威君、貴方もゆっくりと熟睡しなさい。
 
 眠れない日が続いているのであれば、お薬の力を借りてでも今日は休みなさい」


穏やかな氷室さんの口調が最後は、少し強調されて強く響く。


コクリと頷いて、ベッドの中に入ると氷室さんは掛布団をゆっくりとかける。


「神威君の体の疲れをとってくれるお薬を入れなから休みましょうね」


そう言うと、ベッドサイドのボタンを押して何かを告げる。
すぐに別の看護師さんが、点滴セットを手にして駆けつけてくる。



「ほらっ、隣の飛翔も点滴してるね。
 飛翔と一緒だね。
 神威君は点滴苦手かな?」

「別に嫌いじゃない」

「嫌いじゃないけど好きでもないよね。
 本当に良く似てるね。飛翔と……。

 好きじゃない点滴痛くないようにするからね」


そう言うと指先で血管を少し強めに抑えた後、
すぐにチクリとして、あっという間に点滴がセットされる。




「少し眠るといいよ。
 おやすみなさい」






氷室さんの柔らかな声が、すーっと遠のいていくと同時に
後ろの方へと引っ張られるような感覚が襲って来て、
ボクは眠りの中へと吸い込まれていった。