「神威君、飛翔は何処にいますか?」

「助手席。仕事に出てた家の人が運んでくれた」

「そうですか?その人はどちらに?」

「まだ近くで見てる」

「その方に電話を」


そう言うとボクは、須王に電話を渡す。


暫く須王と会話をした後、須王はボクに電話を返してそのまま
その場所からアパートの方へと帰っていった。


「氷室さん、何言ったの?」

「お引き取り頂いただけですよ。
 多分、言葉を交わした感じから、あまり良い印象は受けませんでしたから。

 もう私の視線から、飛翔の車は見えてますから。
 よく頑張りましたね」



そう電話で声が聞こえて、ボクがゆっくりと顔をあげると
紺色の大きな車が駐車場へと滑り込んできた。



「時雨、飛翔の車を」


氷室さんが告げると、もう一人の男の人は何処かへと連絡を始める。


その間に由貴さんは、助手席の飛翔の傍で駆けつけてきて
様子を確認してくれる。



「多分……この間と同じだと思うんです。
 ただ私には経験値不足ですから鷹宮に連れて帰ります。

 神威君も、一緒にこの車へ。
 飛翔の傍に居てあげてください」


そう言うと電話を終えたのと同時に、
もう一人の男の人が、飛翔を抱え上げて乗ってきた車の後部座席へと寝かせる。


「神威君、飛翔の車の鍵を」


氷室さんに言われるまま鍵を預けると、鍵はもう一人の男の人の手の中へ。



「彼は金城時雨(かねしろしぐれ)。
 飛翔とは私と同じように長い付き合いです。

 時雨と私は一緒に生活してるんですよ。小さい時から」



そう言って氷室先生はボクに笑いかけた。


飛翔の愛車の戸締りをして、
そのまま氷室さんたちが乗ってきた車はボクたちを乗せて動き出す。



その途中、金城さんは待ち合わせた誰かに飛翔の鍵を託すと
その人が運転席に乗り込んで、ボクたちの車の後を運転しながらついて来ているみたいだった。




「飛翔の車は心配いりませんよ。
 時雨は警察官ですから、いろいろと伝手があるんです。
 さて、私も鷹宮に一本連絡しておきますね」


氷室さんは助手席から後ろを向いて説明してくれると、そのまま電話をかけ始める。




一時間くらいして鷹宮に到着した時には、何度か顔を見たことがある人が中心になって
飛翔を建物の中へ運び込んでいく。