「あの……救急車は?」

「結構です。
 救急車よりも家の者連絡を取ります」


そう告げて、ボクはそのまま携帯電話を握りしめた。



電話帳を開いて表示するのは、
徳力総本家・華月・万葉・飛翔・本社・氷室由貴の名前。

グループ選択から上下キーを指先で触りながら、
順番にカーソルを行ったり来たり。


飛翔の状況がわからない今、華月や万葉は?


飛翔だったら?

そう思った時、ボクの指先は氷室さんの名前で静止した。

あまり話したことはないけど……
あの人は、飛翔が徳力の一族のことも話してみたいだった……。


だったら……僅かな希望と共に、コールボタンを押す。


一回、二回とコールがなった後「もしもし」と少し驚いたような声が聞こえた。



「えっと氷室さんの携帯ですか?」

「えぇ。
 神威君、どうかしましたか?」


電話の向こうは穏やかな氷室さんの声。



「えっと飛翔が今力尽きて動かない。
 助けて貰えますか?

 大事(おおごと)にしたくないと思うから」

「そうですね。
 神威君、貴方は大丈夫ですか?」

「うん……」

「なら今から言う通りにして頂けますか?」

「何?」

「飛翔の携帯は見つけられますか?」


言われるままにアイツの服のポケットに手を突っ込んで
携帯電話を掴み取る。


「見つけたよ」

「キーホルダーついてますね」

「うん。アイツに似合わないキーホルダー見つけた」

「えぇ、それで構いませんよ。
 ネジになっているので、キュッキュッとまわして中のボタンを押して頂けますか?」

言われるままにキーホルダーを分離してボタンを押すと、
そのまま中の何かが点滅を始める。


「点滅してる。青く」

「えぇ。
 時雨、飛翔のGPSが動きました。位置情報出ますか?」

「あぁ、出てるぞ」


電話の向こう、もう一人の誰かの声が聞こえる。


「ちょうど友達と出かけていたので、近くに居るようです。
 15分くらいで到着します。
 もう少し待ってて貰えますか?」

「大丈夫。待てるから」

「えぇ、それは飛翔も心強いですね。
 飛翔に何がありましたか?」

「お父さんの護符……」



その先は、ボクも氷室さんに伝えていいのかどうかわからなくて
言葉を飲み込む。



「飛翔のお兄さん……つまり、神威君のお父さんの遺された形見の護符のことですか?」

「うん」

「飛翔はそれを使ったと言うことですか?」

「うん……。助けてくれた。ボクを……」



ずっと弱音なんか見せないって、見せたくないって思っていたのに
氷室さんの誘導に引っかかるみたいに、ボクの弱い部分が沢山さらされていく。