するとベランダへと続く窓ガラスが開いて、
あの鬼が姿を見せた。




「鬼神、体は回復したのか?」


何と呼べばいいのかわからなくて、
とりあえず「鬼」と呼びつけるわけにも行かないだろうと
『鬼神』と声をかける。



「神威、何をしている」

「飛翔、部屋を抜け出した鬼がいる」


アイツに説明しながら、鬼の居場所を指さす。


だけど飛翔には、鬼の姿は見えていないのか
首を傾げるだけだった。


その間に鬼は、ベランダから飛び降りて
境内の方へと舞い降りた。


その鬼の後をボクも慌てて追いかける。


「神威、暁華と柊さまと三人で、
 神社の境内の隅々まで見てきたよ。

 でも何処にもないの。

 柊さまの力でも、この地の気を乱すものが
 見つからないの」



桜瑛たちの声が聞こえて近づいてきた後、
柊も姿を見せる。


「大丈夫ですわ。

 桜鬼神の守りし結界を覆うように、
 氷蓮(ひれん)が修復してくださいました。

 暫くの時は作れますわ。

 鬼神の名を持ちしもの。
 今は休まれているはずでは?」


柊も鬼の姿が見えるのか視線を捕える。




ボクたちの視線に気が付きながらも、
鬼は何かをするでもなく無言で桜の木の前に立って、
ゆっくりと目を閉じて手を翳す。






ボクも眠さと格闘しながら、
見よう見真似で、鬼と同じように桜の木に手を翳す。




叶うならば同じものを共有出来ますように。



手を翳した直後、瞼の裏に映し出されるのは
咲と言う少女が、消える瞬間。





視えた……真実。





慌てて目をあけて、鬼を捕える。



「どこかに行くのか」



鬼に問いかけると、鬼はそのままの頷いて
桜の木の中へと消えていった。





鬼が消えた桜の木を見つめながら、
ボクの瞼の裏は、次のビジョンが浮かび上がっていた。



鬼が真っ黒な闇に何かに絡めとられる様を……。




捕らわれているのか?
あの鬼はすでに……。



だからボクは、この夢を見続けるのか?



ボクの想いは、あの鬼に届かない。
ボクはこんなにも、お前を助けたいのに。