『帰らなきゃ。
 ボクの帰るところへ……。

帰りなさい君が居るべき場所へ』







鬼の口がゆっくりと何かの言葉を紡いだ後、
ボクは一気に何かに引きづり戻されるように覚醒した。





ベッドの上で飛び起きて枕元の時計を見つめると、
夜中の2時半を少しまわったくらいだった。


もう一度ベッドに潜り込んで眠ってみようと思っても、
あの鬼の存在が気になって、眼が冴えてしまった。


眠れないや……。




誰も居ない空間に呟いて、体を起こすとそのままパジャマを脱ぎ捨てて
私服へと着替える。


窓際に立って窓ガラスをゆっくりと明けると、
ボクは一階なのをいいことに、そのまま柵を越えて寮を飛び出した。


今は桜塚神社へ。
あの鬼を探しに行きたい。


アイツを助けなきゃ……。




ただそれだけを考えながら、
海神寮から学院を門を抜け出して、
桜塚神社まで駆け抜けた。


途中、警備員さんに見つからないように息を潜ませて隠れながら。





勢いだけで、
こんな大胆なことが出来てしまうボク自身。


それと同時に、
アイツの顔が思い浮かぶ。



*


父さん……母さん……
ボクにあの鬼を守る力を。


*




心の中で念じながら、最後の坂を駆けのぼろうとしたボクは
次第に足が重怠くなっていく。


何だろう、空気がとても真っ黒に見える。


空気が真っ黒なはずはないのに……。


足を踏み出すのも辛くなって、その場に立ち止まると
ゆっくりと深呼吸を試みる。


必死に空気を吸いこもうとするのに、
空気が肺の中に思うように入ってこない。




もがくように必死に、呼吸を整えようと
儀式を繰り返す。


息吹を生吹に……。


そしたらボクは、ボク自身でこの身を守れる。




お願い……ボクは、あの桜の木のところまで行きたいだけなんだ。



雷龍翁瑛、ボクの意に応えて。




必死に召喚の指文字を空間に向かって描き付ける。


一心不乱に……。



ふと金色にひと際輝く光。


その後……金色の雨が、ザーっと降り注ぐ。