ずっと修行の後、ボクはベッドに倒れ込んで
丸まりながら布団を被って眠りについた。




眠りの中……ボクは、またあの鬼を見つけた……。



暗闇の中、苦しみながら逃げるように、追いかけるように
彷徨い続けるその鬼をボクは夢の中で追い続ける。




真っ赤な紅葉が、鬼を縛るように絡み続けてる。


その紅葉に触れようと手を伸ばしても、
紅葉はボクの手をすり抜けていく。





桜吹雪が紅葉から鬼を守り続けるように、
はらはらと、舞い続ける。




そんな空間を越えて、明るくなったその場所に降り立ったボクは
寂しそうな味気ない枯れた世界に足を踏み入れた。


枯れた木々と落ち葉だけが空間に広がり続ける世界。



地面に降り立ったボクは、その枯れ枝を踏みしめながら
ゆっくりと真っ直ぐに伸びる道を歩き続けた。


視界に広がるのは、あばら家。


そのあばら家の中、
苦しげに倒れ込んで魘されている鬼の姿を見つけた。



その鬼の傍に駆け寄って、
ボクは座り込むと、柊に教えて貰った通りに呼吸をかえて
右手の一点に力を集中したいと念じる。


掌がじんわりと熱くなったのを感じて、
鬼の上にそっと手を翳した。



*

『神威、儂の傍に』

幼い頃、怪我をしたボクに父さんが
温かい手を翳してくれた。

そしてボクに笑いかけた。

『手当だよ。
 直ぐに良くなるよ』


*



頭の中で、父さんの懐かしい声が重なって
ボクも無意識に、鬼に向かって同じ言葉を紡いでた。



「手当だよ。
 直ぐに良くなるよ……」



ただ惹かれるように紡ぎたくなった言葉。


ボクは鬼の目が開かれるまで、その手を翳し続けた。



瞼がピクピクと動いて、暫くたった後
鬼の目がゆっくりと開いた。


その鬼は驚いたようにボクをじっと見つめる。



「お前が呼んだのか?
 ボクを……」



その鬼にボクは最初に声をかけるものの、
鬼はボクの声が聞こえないのか無反応だった。




ボクの姿に感じているように思いながら、
鬼は何事もないように、あばら家の中で立ち上がる。


立ち上がった鬼の体を、じっくりと観察すると
鬼の皮膚が変色していることに驚いた。



「お前っ……。その体」


鬼に向かって言葉を発すると、
鬼は無言のまま、ただ寂しそうに、
そして嬉しそうに微笑んで真っ直ぐにボクを見つめた。




鬼がゆっくりと伸ばした掌から無数の櫻の花弁が舞広がって
ボクの体を取り囲むように舞い続ける。