暫くすると、山の中へと続く坂道へと差し掛かる。
坂の下には何処かの家の大きな車が駐車されてあった。



坂をのぼりきった少し広場になって居る場所に、
ボクたちが乗ってきた車が順番にとめられていく。



窓を閉めて、車のドアをとめて地面に足をつける。


生ぬるさと重苦しい空気が、
どんよりと重く体に伸し掛かってくるように纏わりつく。


胸元に無意識に手を伸ばして、
その重苦しい時間をやり過ごそうとする。



「神威、どうした?」


ボクを気にかける飛翔は近づいてきて小さく告げた。


「空気が重たいだけ」

「空気が重たい?」

「うん。重たいの。
 だからあの鬼はボクを呼んでたんだ。

 飛翔、こっち」



脳内に浮かんできたビジョンを辿るように
ボクは桜塚神社のお社の方へとかけていく。


途中、玉砂利を踏みしめながら大きな桜の大木がある場所へと
走りはじめた。


息苦しさは今も落ち着かない。



そんな時、ボクの後を追いかけてきた桜瑛は
気を集中させて、何かを指文字で描く。



「浄化の焔よ」


そう言って桜瑛が紡ぐと、掌から炎が一際大きく迸って
周囲の邪気が祓われていったのか、空気の重苦しさが薄れていった。


術を使った後も、最初の頃みたいに疲れた顔をしなくなった桜瑛。



そのまま後ろの方を振り返ると、
華月と柊が何かを話しているみたいだった。



ボクは更に一人で、神社の敷地内へと立ち入る。



息を殺して隠れているつもりだけど、
あの木の後ろの方……境内の方に、一人・二人・三人……誰かが居る。


気配に気が付きながら特に何かをしてくるでもないし、
その三人がボクに救いを求めた存在とは思えなくて、
夢で何度も見続けたその大木の前までボクは歩き続けた。


大木の前、そっと桜の木の幹に手を翳す。


何かを感じ取れるわけではなかったけれど……
この場所があの鬼と関係する場所なのかもしれない。



そんな風に思えたのは、
その桜の木の中からあの声が小さく響いた気がしたから。


*

大丈夫。
ボクがちゃんと君を助けるよ。

*


目を閉じて桜の木に向かって小さく呟いた後、
ボクはその場所を後にした。