「神威、何してる?
 
 起きてるだろ。
 布団を置いて、少しベッドの上に座れ」



アイツの言う通り、ようやく動けそうな体を確認するように
そっと立ち上がってベッドへと座る。



「神威、俺と一緒に働いてる嵩継さん。
 様子見に来てくれた」


アイツがそんな風に説明すると、その人はベッドに近づいてきて、
ボクの状態を診察していく。

さっきまで不調だったのが、アイツにバレやしないかドキドキする心を
必死に抑え込むように無言になる。


診察の後、嵩継って先生は部屋を出ていって、
アイツがボクと向き直る。

何時の間にか床から拾い上げた肌布団をボクの体にかける。


「ほらっ、嵩継さんのお達しだからな。
 腕だせ」

そう言いながらボクの腕を掴むと、指先で何かを調べて
その後は消毒をしてから針を挿入する。


アイツがどんなふうに仕事しているのか、
少しでもボクの知らないアイツを知りたくて
ただじーっと針が挿入されるまでアイツを見続けていた。




「ほらっ、後は眠ってろ。
 点滴終わったらはずして俺も寝る」

「まだ眠くない……」

「なら眠くなるまで傍に居てやる」

「なぁ、飛翔。ずっと同じ夢を見ることってあるのか?」



無言になるのが寂しくて、ずっと思ってた夢を告げる。



「毎日、同じ夢を見るのか?」

「うん。ずっと同じ夢ばかり見る。さっきも見てた。
 桜の木が凄く綺麗な場所で、その鬼はずっとその下に広がる街並みを見てたんだ。
 
 だけど今はその鬼はずっと苦しんでる。

 助けてってボクにずっとずっと、伝えてくるんだ。
 だけどボクは、どうしたらあの鬼が助けられるかわからない。

 ボクはどうしたらあの鬼を……救える?」



そう……どうしたらボクは、あの鬼を救えるの?



答えはまだ見つからないまま、
引っ張られるような感覚に身を委ねるように
ボクはうとうとと眠りについた。





翌朝、目が覚めた時、部屋の外の騒々しい声に
思わずため息をつく。



「ご当主、お目覚めでございますか?」


部屋の外で華月の声が聞こえるのと同時に、
「何時まで寝てんのよ」っと、華暁の声が遅れて響く。


「華暁、ご当主の御前でなんて口のきき方ですか?」


窘める華月の声。


「母上、今の神威を敬う必要なんてありませんわ」


キャーキャー煩い華暁と華月の親子喧嘩を聞きながら、
耳を塞ぎたくなる。


ベッドから這い出して窓際に歩こうとした時、
思いがけないもう人の姿が視界に入る。