「御馳走さまでした。嵩継さん」

「まぁな。
 早城、今は焦らなくていいよ。

 お前はお前のペース。他の奴は他のペース。
 オレもオレのペースでしか歩けねぇからな。

 甥っ子、神威君だっけ。
 兄貴の忘れ形見だろ。
 今はせいぜい、面倒見てやれ。

 オレも研修時代は、めちゃくちゃだったし
 聖也さん、あっ、城山先生にもかなり迷惑かけたんだよ。

 高校時代のダチが骨肉腫で搬送されてきてな。
 主治医よりも先に告知して、屋上から飛び降りられた。

 まっ、ここの院長にはオレもかなり世話になってんだ。
 でも今、オレは海斗の一件があったから、あの時以上に医者になれてる気がする。

 お前さんも焦りなさんな。
 今日のER研修はオレの独断で、他の奴に変更する。

 氷室と勇人と三人で、ガス抜きしてこいや。
 あの二人も思うところ多々ありそうだしな」


そう言うと嵩継さんは再び、患者さんやその家族に声をかけながら俺の前から姿を消した。


午後からのカンファレンス。
そして医局でのデスクワーク。

そして研修医たちが集まって行う勉強会。

それらを順番にこなした放課後、嵩継さんがセッティングしたのか
分厚い本と向き合う俺のところに、二人が姿を見せた。


「飛翔、そろそろ仕事上がれるだろう。
 嵩継さんが、海斗さんのお母さんのお店予約してくれてるってさ。

 三人で出掛けて、ついでに海斗さんのお母さんの顔見てこいってさ」


そう言いながら勇は、何処か楽しそうで。


「勇、海斗さんって方はどちら様ですか?」

「あっ、海斗さんは嵩継さんの親友の名前。
 嵩継さんにとっての高校の後輩で、サッカー部の仲間だったかな」

「骨肉腫で亡くなった?」


昼休みに聞いたばかりの名前に、
病名を紡ぐ。


「あっ、飛翔、きいたんだ。
 嵩継さんに。

 ほらっ、嵩継さんが首からずっとぶら下げてるペンダントわかる?」


勇の言葉に、時折、チェーンが見えていたのを思いだす。



「見たことあります。勇、それが何か?」

「そのペンダントが海斗さんなんだ。
 エターナルプレートっていって、海斗さんの遺骨を使って作られたものらしい。

 今から行く店は、その海斗さんがずっとお母さんと切り盛りしてたお店なんだ」


勇の説明を聞きながら、俺たちは勇の車を運転するRiz夫人に連れられてその店まで出掛ける。


「こんばんは」

「あらっ、勇人君。
 嵩継君から連絡貰ってるわよ。
 氷室君と早城君だったわね。

 どうぞ、奥の座敷が唯一の個室だから部屋とりましたよ」

「有難うございます。

 嵩継さんが心配してましたよ。
 もうすぐ、薬が切れる頃ですしまた鷹宮にいらしてくださいね」

「そうだねー。
 行かないと嵩継君に怒らせてしまいそうだね」



勇について奥座敷に座ると、勇はお店の手伝いをするかのように
カウンターの方へと行く。


ビールがすぐに運びこまれた後、
次から次へと小料理が運び込まれてくる。