「おぉ、嵩継。湯川さんは大丈夫なのか?」
「はいっ、慢性肝炎からの食道静脈瘤でした。
早城が巡回中に異常を発見し、早急に処置できたものと思います。
出血量が多かったのでバルーン止血の後、カテーテル治療を施しました。
出血は止まりましたが、今後の肝機能の低下に予断は許せません」
「そうか。嵩継、御苦労だったな。
早城、君も研修医の身で大変だっただろう。
だが嵩継の元に居て損することはない。
貪欲に大切なものを吸収するといい」
「代診有難うございました。次の患者から交代します」
嵩継さんはそう言うと、さっきまでの疲れた表情を隠して
普通に診察を始める。
コンピューターを操作しながら、午前中の外来の全てを予定より少しオーバーして終えると
13時近くになってた。
「悪かったな。
さて、昼飯行くか。
食堂で良かったら奢るぞ」
そう言って俺と肩を並べて歩いていく嵩継さん。
ただ歩いているだけど、次から次へと患者から声をかけられる存在。
擦れ違うたびに、他愛のない会話を繰り広げる存在。
外来から食堂まで本来なら一階から三階。
移動に五分もかからない場所なのに、
食堂に辿り着いた頃には、すでに13時10分。
「うわっ、寄り道しすぎた。
おばちゃん、日替わり2つ」
滑り込むように食堂に入ると、職員専用受付でオーダー。
「わっ、安田先生。
今日は、ちょっと遅かったんだねー」
「まぁな。
おかげでお腹ペコペコだ-」
「はいはいっ。先生の大盛りにしとくから。
お連れの研修医の先生は?」
「俺は並みで」
「はいよっ」
「ところで皆川さん、調子どう?
まだ痛み続くようだったら、仕事の後でも連絡してくれたら俺、対応するから」
「ありがとよ。この間、見て貰ってからは調子いいよ。
はい、お待たせ」
そう言って調理側から手渡されたランチ定食に多さに絶句。
ご飯もおかずも大盛りの定食をテーブルに運ぶと、
パクパクっと胃袋の中におさめていく。
俺も豪快な食事をみながら、出された定食を最後までたいらげる。
「御馳走さまでした。あぁ、食った食った」
あれだけの量を俺よりも先に食べ終わる嵩継さん。
数分後、普通の量を食べ終えた俺は、二人分の食器を返却口へと戻す。