「研修医、頑張っとるか。
 安田先生も昔は、よー怒られとった。
 城山先生にな。

 だから君も頑張りなさい。
 一日も早く、早城先生って言われるようにな」


そう言って喜田さんは俺に話かけた。

俺の隣「喜田のおじいちゃん、立つ瀬ないやろ。オレ、今こいつの指導医や」なんて
頭抱えながらリアクションする嵩継さん。


そんな嵩継さんに惹かれるように、病室で元気がなかった患者さんたちは
少しずつ笑い始める。


患者さんに笑顔が戻ると、「じゃあ、また来るな」っと手を振って次の患者さんの方へと
嵩継さんは移動した。





その途中、まだ訪問前の病室で確証はないのに
不安がぬぐいきれない。




嵩継さんが入った病室とは違う部屋へと足を踏み入れる。
シーンと静まり返ったベッド。


「どうしました?」


ベッドに眠る患者さんは、顔面蒼白で明らかに様子がおかしい。


ベッドの前にかかるプレートで、患者さんの名前を確認する。


湯川啓子【ゆかわけいこ】72歳
主治医:Dr安田


プレートの確認と同時に、PCから電子カルテを立ち上げながら
「安田先生、603号室までお願いします」っと声を張り上げる。


その直後、湯川さんは吐血した。
電子カルテには、慢性肝炎の文字。

出血原因は食道静脈瘤?


そんな状況が脳内でリンクする。



「早城、気道確保。

 湯川のおばあちゃん、もうちょっと待っててや。
 サクっと処置するからな」


そう言いながら嵩継さんは次から次へと指示をしていく。

俺は気道確保しながら、介助につく。
看護師が運んできたストレッチャーに、3人がかりで移動させて
処置室へ移動させて出血部位を止血をしていく。

ゼレグスターケンブレイクモアチューブを挿入してバルーンを膨らませて止血した後、
内視鏡で更に詳しい検査を進め、更にカテ-テルで治療していく。


それらに一通り関わって、一段落付いた時には
すでに外来が始まっている時間だった。



「悪い、水谷総師長。後、頼むわ。
 外来行ってくる」

「はい。安田先生、お疲れ様でした」

「行くぞ、早城」


嵩継さんについて、そのまま外来まで行くと嵩継さんの代わりに、
病院長が代診をしてくれていたようで、嵩継さん自身もかなり驚いていた。