その場で立ち上がって腕で涙を涙を拭うと、
そのままフラフラと神殿の奥から今度は海岸の方へと歩いていく。


両親が眠るお墓の傍へ。




あの場所で……一度、金色の雨を見てる。
だからあの場所なら……ボクも桜瑛のように力が使えるかもしれない。



そんな僅かな祈りを込めて。


着替えた真っ白な着物は、土に汚れてしまってる。


決して、身綺麗と言えぬままボクは
父と母が眠る墓の前で、同じように柊に教わった所作を繰り返して
再び雷龍召喚の指文字を描く。




*

今は全く力のないそこの当主よりは霊力だってあるわよ。

*


華暁の言葉が深く突き刺さる。






お父さんはどうやって翁瑛の力を借りていた?

ボクは、お父さんの子供なのに……徳力の当主なのに、
どうして雷龍とコンタクトがとれないの?


雷龍の力を感じられないの?




ボク自身を責める言葉は沢山思いつくのに、
思いつけば思いつくほど、ボク自身が苦しくなってお墓の前でしゃがみ込む。



*

お父さん、お母さん。

お母さんはどうしてボクを守るためにその身を海に還したのですか?

お父さん……。
お父さんが海に還った後から、ボクは当主になりました。

だけど当主って何ですか?
ボクは徳力と言う透明な籠に閉ざされ続ける鳥なのですか?

*



手を合わせながら、何度問いかけても
お父さんの声も、お母さんの声も聞こえない。



ただボクの耳に届くのは、規則正しい海が波打つ子守唄。
そんな波の音に誘われるようにボクは眠りに落ちる。



気が付いた時、ボクは自室の布団の中で目を覚ました。





「ご当主、お目覚めですか?
 心配致しましたよ。

 お父様とお母様のお墓参りですか?
 一言、声をかけて頂ければ皆さま、安堵なされましたのに」



眠っているボクに声をかけてくるのは、見知らぬ存在。

ゆっくりと布団から体を起こして、
真っ直ぐに見据える。



「誰?」

「ご当主、お目覚めでしょうか?」


目の前の女性に声をかけた途端、襖の向こうから
聞きなれた声がボクを呼ぶ。


あの声は……確か、闇寿と万葉の妹、桜愛【さい】のはず。


「桜愛、入れ」


真っ直ぐに背筋を伸ばして、声を襖の方に向ける。