流石の状況に、飛翔も万葉も驚いているみたいだった。

「桜さま、ご当主に何てことを」

慌てて、華暁を嗜めようと声をかける万葉。
だけど華暁にそんな説教はきかない。


「お黙りっ、万葉は黙りなさい。
 誰も神威に何も言えないから、こんなことになるの。

 お母様が監禁されてたですって?
 監禁されて、倒れて、入院までなさっていたのに私は学校の寮で何も知らされなかったですって。

 それに……私だって、徳力の「桜」として一族の為に修行してるわ。
 今は、全く力のないそこの当主よりは霊力だってあるわよ。

 私の式神が教えてくれた。桜瑛が倒れたって。
 しかもその傍には、神威、貴方が居たわ。

 どういうことか、私の前で説明して貰うわよ」


アイツは勢いに任せて、ポンポンとボクを責め立てるように抗議する。


そんな華暁を無視するように、目の前を通過して邸の中に入ると
中でも、じっと真っ直ぐにボクを見つめる視線が一人。



「ご当主、飛翔お帰りなさい」


ふと椅子から立ち上がった華月が、ボクたちに声をかける。


「ボクは部屋に居る」


華月にのみ所在を告げて、
そのまま更に奥にある部屋へと向かう。

背後から気配を感じていた飛翔は、
華月と夕妃たちに捕まっているようだった。



数ヶ月ぶりに立ち入った総本家の自室。


その部屋でボクは、着物に袖を通すと
裏庭から更に奥の神殿へと続く場所へと歩いていく。



総本家の敷地内は広い。



母屋のある本館。

その奥には、桜の住む居住区「桜御殿」。
当主のみ立ち入ることが許される「神殿」が存在する。





神殿へと続く途中、真っ黒な巨大の石にしめ縄が飾られている龍石【りゅうせき】の前に立って
祈りを捧げる。



徳力の家から代々受け継がれているこの龍石は、
一番最初に、一族の御神体である雷龍が降り立って巻きついた石とされている。


それ以来、この石の近くには正方形の黒い石が次から次へと湧き上がる。

本当かどうかは、今のボクにはわからないけど
その石の一つ一つに龍が宿り、力あるものは使役することも可能だとか。




その石の麓に立って、柊にならった通り禊を再び実行して
息吹を生吹へと転じるように、所作を繰り返す。



そこで雷龍召喚の指文字を描くも、
ボクの体には、ボクの心には何も伝わらない。




チクショーっ。



何度か同じ所作を繰り返して挑戦するものの、
成果は感じられる、その場に崩れ落ちて、悔し紛れに両手で土を握りしめて拳を地面に叩きつける。


何度も何度も痛め続ける拳。



悔しさから溢れだす涙。