「まぁ、それは先代の雷龍の神子が残された護符ですわね。
それは来るべき時が来たらまた、その思いに応えてくれましょう。
護符が変化を遂げないと言うことは、今はその時ではないと言うことです。
さぁ、徳力のご当主。火綾の巫女。
それでは、今日はまず力を解放するためには、精神を統一しながら身を清めなければいけません。
その方法をゆっくりと説明していきましょう」
何時の間にか蒼龍の姿も消えて、ボクと桜瑛は洞窟のような場所へと誘導された。
そこで手渡された、真っ白な着物に着替えると柊と共に
洞窟の奥にある湖の中へと体を進めていく。
突き刺さるような水の冷たさを感じながら、ボクと桜瑛は体を震わせる。
同じように着替えを済ませて湖に入ってきたアイツもまた、
不思議そうな顔をしていた。
そう……外は蒸し暑さの感じる感じる六月が近い季節だと言うのに、
この場所は、空気も水も冬の様に冷たい。
「お三方とも、驚きのことと思います。
この地の神泉【しんせん】は、各皆様の住まう地の洞窟へと繋がっています。
外の世界とはまったく隔離されたこの場所のみが、
神子の禊の場所として一番の理想とされています。
それではまず、あちらにある手桶を持って、こうして掬い取った水面にイメージした太陽を浮かべて
頭からゆっくりと水を浴びる。
それを無心に100回ほど続けてください」
はっ、水浴びを100回?
クレームも何も受け付けませんと言うかのように、柊はボクと桜瑛たちの前で一心に水を浴びていく。
真っ白い着物も濡れて、肌に吸い付いているを感じる。
それでも尚、流れるような仕草で水を浴び続ける。
そんな柊の行動と、洞窟の岩肌に光る蒼白い光が凄く幻想的な雰囲気を映し出している。
桜瑛が水浴びをはじめて、アイツも始める。
アイツがやり始めたのを見て、負けじとボクもテンポよく水を浴び続けた。
最初は冷たいと感じていた水が、今度は感覚がなくなっていって
今では温かさすらも感じてしまう。
自分自身、不思議な感覚が体を包み込む。
水浴びを終えた柊は、次はカチカチと歯を打ち鳴らし始めた。
その一連の行動を追い続けるように、ボクたちは一心に、柊を追い続けた。
そして最後は、ゆっくりと息を吸って、息を吐き出していく。
その行動には、ゆっくりと手の所作をつけて。
息を吸うときには、大地のエネルギーを吸い上げるように手を下から上に。
吐き出すときは、その蓄えたエネルギーを集めるように胸元で両手をあわせる。
そう言った一連の儀式をやり終えると、
頭の中だけはクリアですっきりとしているのを感じられた。
「お疲れ様でした。
先ほどの禊は、龍に守護に持つ神子がその役割の為に清める所作。
いつも仕事前にも、修業前にも必要となります。
お忘れなきよう。
では今から、宝さま、火綾の巫女、飛翔殿には私が成す実際の仕事を
見守っていただければと思います。
どうぞお車へ」
柊はそう言うと、
龍が着ていたような不思議な服を身にまとう。



