「ご当主、柊殿は現在、唯一、龍神の加護を得られし方。

 雷龍の神子であられるご当主・炎龍の神子であられる火綾の君。
 お二人に、その龍のご加護の使い方を指南するべく、
 今宵は出向かれたよし」


「柊、お前はボクが雷龍を使役せしものと言い切るのか。
 ボクは今だ、その姿を認めたことがない」


「私の柳蓮【りゅうれん】が申しております。
 ですから、貴方は紛れもなく、雷龍の玉を抱きしもの。

 それは貴方の御手に刻まれし刻印が証。

 宝さまと火綾の君には、これより時間が許す限り
 私と行動を共にして頂きたく、お役目を伝えに参りました。


 龍を抱きしものの務めは、 各地に渡る全ての結界をその身に移し、
 弱りし土地に赴いて、その地の結界を強固にすること。

 私はこれまで、娘を華月殿に託して
 この地を守るために奔走してまいりました。

 この後は、お二人の後継者にその役目をしかと伝承したく存じます」







生駒の神子が語るのは、
すぐに受け入れることも理解するのも難しいほどに
非現実的で、スケールがデカすぎて想像がつかない。




すると突然、神威の体が傾ぐのを感じて
慌てて背後からアイツを支えた。



「どうした?」

「何でもない。
 不可思議なビジョンが映っただけだ。

 それより柊、ボクたちは継承者として
 何を学べばいい」



俺が訪ねた問いも『大丈夫』の一言に誤魔化されて、
そのままガキは当主として、継承者として生駒の神子と渡り合う。



雷龍翁瑛を使役していた兄貴。




兄貴は、翁瑛のことを宵玻と名付けていたのは
札を見て理解できた。





ならば……兄貴もまた、
生駒の神子のように、この常識外れの役割を
担っていたと言うのか……。






俺自身の常識が通じないその世界へ、
身を踏み入れようとしているアイツに、
俺は何をしてやれる?




チラリとガキの表情を盗み見るも、
ガキの覚悟はすでに定まっているように思えた。





「明日の明朝、お三方には私のお供を」





柊が意味深に告げて一礼すると、
華月の病室を後にした。