なら……あの人は、
櫻翼の配偶者ってことか。




「失礼します。

 お手紙を頂戴いたしまして、
 まかりこしました」



話の途中、ドアの外から
生意気な少女の声まで聞こえる。




「秋月さま、お入りください」



華月が声をかけた途端に、
静かに開かれたドアから、着物姿の生意気なガキで入ってくる。


「これはこれは、秋月の火綾【かりょう】の君」

「其方が手紙の主、柊ですか?」



初対面の挨拶の後、神威の方向に近づいた少女は
次の瞬間、「神威っ!!」と抱きついた後、
「神威のバカ」とアイツの頬をビンタした。




チラリと横に見たガキが、
あの桜瑛とか言う少女を見る表情が
何処か嬉しそうだった。



「さて、ご当主も火綾の君も揃われましたし
 柊殿、本題を……」



ベッド上の華月が呟く。


すると生駒の神子はゆっくり周囲を見つめて、
あの時と同じように、指を使って何かを行う。


流れるような仕草で何かを成し得た神子は
ふぅと一息つくように肩の力を抜いた。




「生駒の神子、何をした?」

「徳力のご当主。
 いえ、この時より古の呼び名で。

 宝【ほう】さま、私の呼び名は柊【ひいらぎ】で結構です。

 先ほどは、この病室の隅々にまで、蒼龍の加護による
 結界を張り巡らせました。

 不浄の者より、この言霊【ことだま】を守るため」

「言霊を守る?」

「さようでございます。
 力ある者たちが紡ぐ言葉は、その言葉が魂を持つ言霊。

 その力をカムナなどに狙われては行けません故。

 私がこの場をおさめました」




宝【ほう】?

カムナ?





生駒の神子が語りだす会話は、
不可思議すぎて、全く理解が出来ない。




結界?
不浄?



なんだよっ、一体。





コイツは、ガキを何に巻き込もうって言うんだ。





不安と焦りだけが包み込む。