「どうかしたか?華月」

「ご当主はいらっしゃいますか?」

「万葉とミーティング中だな」

「まぁ、さようでございましたか。
 先ほど、一族の者にご当主から正式に通知が参りましたよ。

 飛翔、ご当主の補佐役に任じられたみたいですわね。
 早城の家も末席から一気に、ナンバー2。

 これでアナタに手を出すものが居なくなりますわね」





華月からの電話で、
俺の存在がアイツの中で認められたことを実感する。




華月からの電話を切ると、
親父が正装して姿を見せる。


そんな親父を強引に追い返して、
神威の部屋に訪れる。




「ガキが気を使ってんじゃねぇ。

 まぁ、だが……神威の補佐役って言うのも悪かない。
 これで正々堂々と、神威をしめることが出来るな」




18時を過ぎた頃、
再び神威の部屋を訪ねるとまだ勉強を続けていた。


「出掛けるぞ」


声だけかけて、俺自身の身支度を整えて
リビングで医学書を読みふけっていると、
神威は黒紋付に身を包んで姿を見せた。



「お前、その服装」

「当主としての正装だ。
 当主として客に会うのだ。
 当然だろう」



そんな神威を連れて地下駐車場に降りた後、
愛車に乗り込もうとした俺をアイツの手が掴み取る。


目の前に停車するのはリムジン。



マジかよ。




「ボクの当主としての移動手段だ。
 ボクの補佐役なら、その時間はこの移動に慣れろ。
 いいな」

「あぁ」



ガキの頃からリムジンとは……。



リムジンなんざ、初等部の昂燿の生徒会以来だな。

っと遠い昔を思い出しながら、
車内に乗り込んだ。



リムジンが神前のエントランスに滑り込むと、
そのまま華月の病室へと向かう。




「華月、見舞いに来た」



病室の前、ノックをしてから入室を試みようと思う俺よりも先に
神威はドアを開けて、アイツに声をかける。


中には先客が居た。


「あなたが徳力のご当主」



神威に問いかけるその先客が、
総本家前で俺たちを助けて倒れた生駒の神子だとすぐにわかった。



「生駒の神子」


彼女を示す呼び名を紡いで、病室内へと入室する。


「華月、どういうことだ?」

「ご当主、彼女は生駒の隠し神子。
 柊佳【とうか】殿。

 我が娘、夕妃の実のお母上です。
 私の弟と寄り添った者にございます」




神威が問いただしたないように、
華月は自らの身の上を報告するように告げた。


華月の弟は徳力櫻翼【とくりき おうすけ】。