海神校独自の、ギリシャの街並みを再現した学園都市を
走り抜けて門を出ると、一気に空間は日本の田舎風景へと変わる。
「神威、徳力の当主宛に一通の手紙が届いた」
そこでジャケットの内ポケットから取り出した、
徳力の総本家へと届いていた手紙をアイツへと手渡した。
「飛翔、これは?」
「万葉曰く、生駒の刻印と言うことだ」
「生駒?」
それだけ伝えながらも、
俺にはそれが意味するものが何なのか
全くわからなかった。
あの金色の雨が降った日、
突如、手の甲に刻まれた刻印。
だがその刻印は、見えたり消えたりを繰り返していて
何に反応して、そう言った現象が起きているのか知りうることが出来ない。
そして次に、この刻印がもたらす
肉体的な負担はあるのかないのか。
現時点では、俺自身の肉体を調べても
医学的な判断要素は一切なし。
この刻印の意味すらも、理解できないまま
自己主張のように、消えたり浮かび上がったりする刻印の存在に
振り回されていた。
「飛翔、19時に華月の病室で会いたいと記されている」
「そうか。
行きたいか?」
「当主として行く」
「なら俺は立ち会うだけだ」
車を走らせながら、
アイツ自身がやりたいことを聞き届けて、
その意を汲み取ってやる。
「怒らないのか?」
「神威が決めたのなら仕方ないだろう。
お前が大人しく甘んじるとは思えん。
なら許可をして見届ける方が得策だろう」
「なら一度マンションに戻って支度してから出掛ける。
各事業の報告を受けたい。
万葉を呼べ」
神威の言うとおりに、車の中から万葉へと連絡をして
マンションに顔を出すように伝える。
そのまま20分を沈黙の車内で過ごして、
マンションの最上階へと帰り着くと、
アイツは姿を見せた万葉と共に、自分の部屋へと引き籠った。
一族の当主として、
あの幼い身で徳力の事業報告を受ける。
あのガキ……下手したら、
俺よりも経営学、勉強してるかも知れないよな。
アイツが専攻してるのは、エグゼクティブだったからな。
書斎から経営学の本を手に取って、
ソファーに座りながら、ペラペラとめくっていく。
アイツの横に立つってことは、
こっち方面も必要不可欠ってことだよな。
そんなことを思いながら読みふける専門書。
そんな時間を過ごしていると、
俺の携帯電話が鳴り響く。
電話相手は入院しているはずの華月。



