「ガキが気を使ってんじゃねぇ。

 まぁ、だが……神威の補佐役って言うのも悪かない。
 これで正々堂々と、神威をしめることが出来るな」


そんな憎まれ口を叩きながら、
目の前のアイツは意味深に笑う。


18時を過ぎた頃、アイツがボクの部屋を訪ねる。



家庭教師に出された課題をこなしながら、
勉強をしていたボクに「出掛けるぞ」っと声をかけた。



分厚い本を閉じて、
アイツの待つリビングへと姿を見せる。



徳力の当主として相手に対面する場合、
ボクの正装は仕立てられた当主としての紋付き袴。 



黒の紋付を身にまとって、
アイツの元へと出ると驚いたような顔を見せた。



「お前、その服装」

「当主としての正装だ。
 当主として客に会うのだ。
 当然だろう」



そのまま地下の駐車場に向かったボクは、
飛翔が指さした愛車とは別に、
徳力の本社から呼び寄せたリムジンへと飛翔を呼びいれる。



「ボクの当主としての移動手段だ。
 ボクの補佐役なら、その時間はこの移動に慣れろ。
 いいな」

「あぁ」



飛翔は一言だけ頷いてまた黙り込む。


沈黙の車内のまま、神前までリムジンが走ると
ボクたちは、華月の入院している特別室を目指していく。



「華月、見舞いに来た」



病室のドアを開けてボクが声をかけると、
そこには先客が居た。



「あなたが徳力のご当主」


先客が告げた途端、
ボクの後ろに居た、飛翔が「生駒の神子」と
言葉を紡いで病室へと入っていく。



「華月、どういうことだ?」


「ご当主、彼女は生駒の隠し神子。
 柊佳【とうか】殿。

 我が娘、夕妃の実のお母上です。
 私の弟と寄り添った者にございます」




華月は静かに自らの関係を告げる。



華月の弟の名は……。



一族に伝わる家系図を脳裏に描いていく。




徳力櫻翼【とくりき おうすけ】。
櫻翼の奥方が、あの生駒の神子。




「失礼します。

 お手紙を頂戴いたしまして、
 まかりこしました」



話の途中、ドアの外から桜瑛の声が聞こえる。