何度、殴られても蹴られても、
すぐに体を這いずるように起こして
海に入ろうとしていく神威君の腕を引き寄せて
助けようとしている。



「時雨」



そんな目の前の光景を見て隣に居た時雨に、
助けてほしいっとアイコンタクトと共に声をかける。



時雨は軽く頷くとそのまま、飛翔と神威君の居る
中心の方へ一気に駆け出した。




その後を追うように私と勇も追いかける。




時雨が飛翔を庇うように背中を向い合せて立つと
そのまま、揉みあいになっていた男たちの急所をついて
砂浜の上に倒して転がしていく。



どの男もその場で気絶しているのが見て取れる。




「飛翔」





傷だらけの飛翔を見つけて駆け寄る。




「悪い。
 まだ終わってねぇ」



私と勇が支えようとするのを振りほどいて、
飛翔の意識は、神威君へと向けられている。



時雨は気絶した男たちを一か所にまとめて、
ロープでそれぞれに身動きできないように固定した後、
飛翔よりも先に回り込んで海の方へと歩き続けようとする
神威君の正面へと立ち塞がる。



「勇、私たちも神威君の方へ」




慌てて神威君の方へと駆け寄ると、
虚ろな瞳は視界に何も映していないように見えて……。




脳内に浮かび上がったのは、
洗脳に近い暗示状態にかかっているのではないかと言う疑惑。



昔から、人柱として贄が当たり前のように行われていた
この場所だからこそ……何かがあるような気がした。





神威君の前で、両手をパチンっと
叩いてみても……暗示がとける気配はない。




飛翔君の傍で、勇と二人、
思いついたことをしてみるものの、
神威君は……ただ海へ海へと歩いていってしまう。




何かに導かれるように。
裸足のまま砂浜を歩き続ける。





波の飛沫は少しずつ高くなり、
まるで……彼の全てを飲み込もうとしているみたいで。



覚悟を決めてもう一度、彼の正面へと
向き直ると彼の頬に握りしめた右手を開いて大きく頬を叩く。


パシーンっと大きく音を響かせて叩いた……
それすらも効果がない。