奥宮の広間を後にした俺は、
自室へと一度戻り、白装束に着替えを済ませると、
総本家の建物から抜け出して社に続く細道を駆け上がる。


禊を済ませて、ゆっくりと社の中に閉じこもると、
気を集中させていく。


目を閉じ、感覚を解放していくだけで
様々な声が洪水となって流れ込んでくる。



人の持つ、喜怒哀楽。


生きて行くために必要な心の声の数々。




そしてその声に対となるように
入り込んでくる、闇の声。


その闇の声はやがて俺が求める闇へと
姿を変えて行く。




何度向き合おうとしても、
決して慣れることが出来ない重苦しさ。



呼吸が安定せず、脳内をかき乱されるように
じんわりと侵食し始める闇の魔物。










『母殺し、父殺し。
 お前が殺した過去は何も変わらない。

 この手を取るがいい。

 苦しまぬ世へと、
 お前を責めぬ世界へと連れて行ってやる。

 お前を幸せにしてやるから』



俺に纏わりつく
カムナは優しい。





そう……今を生き続ける。



それだけで俺は罪を重ねる。



母親殺し。

父親殺し。




生贄として殺されたとは

その時知る出来事ではなかったとしても、
その命と引き換えにして生かされた命。




その現実の重圧は重たい。



目を閉じると、
それだけで囁かれる声が聞こえる。