「生神さまなんだ。
 俺が育った村の……。
 
 だけど……、
 生神さまは
 何一つ守ってくれなかったけどな」





『生神』のキーワードが
また引っかかったのか、
クラスは騒々しくなる。





初日から、
このクラスの奴らの視線。




だが今、
ここで俺が何かを言葉にするのも
騒ぎが大きくなるような気がして
ただ黙ってその場に立ち尽くした。





「俺の机は何処?」



冷たい声色で尖るように解き放った声は
一瞬のうちに、
騒々しかった教室を鎮める。




「徳力、すまない。

 陸奥(むつ)、
 早く立ち上がって椅子に座りなさい。
 
 徳力の席は窓側の一番後ろ」



俺は指示された場所に歩いていくと、
そのま小さな机に腰掛けた。



「もう一人の転校生を紹介する。

 朱鷺宮涼夜くんだ」





紹介された途端、
先ほどまでの鋭さがスーッと消えて
ゆっくりとお辞儀をした。




「朱鷺宮?」

「あの……
 司宮(つかさのみや)の弟?」





教室内が別の意味で、
ざわつきはじめる。





「司宮竜也(つかさのみや たつや)は
 俺の兄です」




教室内の反応は、
朱鷺宮に助けられるような形で、
宮家の話題に一色に染まりはじめる。



そんな空気に、内心救われながら
この学校に、過去の俺を知るものが
いることに戸惑っていた。




……生神……。




昔から当たり前のように扱われ続けた、
その生活が、今の時代がかけ離れた
特異の生活だったと知った今、
あの時間に引き戻されるのも
体が拒絶する。




重なる罪悪感。

押しつぶされるようになる重圧感。





指定されたで、
溜息を一つ、吐き出して
教室の外を眺めた。





その後に続いた入学式。


退屈な時間が終わって、
転校初日は過ぎて行った。




二日目以降、
毎日通学するものの
授業が始まっても、
それは欠伸がでそうな環境で
ただ教師の声が子守唄のように
流れていくだけ。




正直、この学院に対しての
メリットが感じられないままに
時間を過ごしていった。