「なぁ、飛翔。
 学校は変わってないのか?」

「あぁ。
 変わってない。

 そう、そこの中庭の芝生の向こうに
 桜の木があるだろ。

 あそこで、時雨の弟が良く昼寝してた。
 まっ、中等部の頃だけどな」

「飛翔は?
 お気に入りスポット?」




その問いかけには、
少し考えるような仕草の後、
悪戯っ子のような笑みを浮かべる。



「行ってみるか。
 久々に」



そう言うと、スタスタとスピードをあげて
校舎の外についた階段をさっさと昇っていく。



階段をひたすら、
息一つ切らさずに、
5階くらいまで昇りきった後
鍵のかかったドアノブに
ゆっくりと手を添える。




「飛翔?
 何してんの」

「あぁ、鍵開けてんだよ。

 昔と一緒なら、
 こうやって……ずらしたら……」



カチャリ。



そんな音が小さく木霊すと、
飛翔は躊躇いもなく、
扉を一気に開いた。



そこから更に、
上へと続く梯子。




その梯子すらも、
手慣れた感じで昇りきると
屋上の風に吹かれながら、
大きく体を伸ばした。 





「ようこそ。

 俺の隠れ家へ」



そうやって呟いた、
飛翔を見ながら……
氷室先生に、微かに同情した。




こうやって、授業をさぼったり
きままに過ごす、飛翔をあの人は
文句を言いながら
追いかけてたんだろうなって。




「サボリ」

「けっ。

 何とでも言え。

 さっ、用が済んだら
 理事長室に行くぞ」




飛翔はやっぱり、
手慣れた手つきで梯子を下りて、
ドアを潜ると、
カチャリと鍵をかけて、
軽い足取りで、一階まで降りていく。





「エレベーターくらいないわけ?」





堪り兼ねたように言った
俺に「あるかよ」っと
無情な返事をアイツは告げた。






本館らしい場所から
校舎へと入り、
理事長室へと案内された時、
部屋の中には、先客が居た。





「遅いですよ。

 早城飛翔くん」


飛翔を良く知ってそうな口ぶりで、
近づいて笑いかける男の人。



「そちらが、甥子さんの
 徳力神威くんでしたね。

 初めまして。

 当、香宮学院の学院長を務めます
 二階堂です。

 飛翔とは、クラスメイトでした。

 三年間、この学び舎が
 貴方にとって良き場所にならんことを
 願っています。


 決して、飛翔の背中を追わないように」




えっ?



氷室さんもそうだったけど……
飛翔の学生生活って、
一体、どれだけ捻てたんだよ。