慶介サイド
「…慶ちゃん、やっぱり…嫌だ」
俺の制服の袖をキュッと掴む。
そう、実はこれから初めての練習試合。
相手は…男子校で有名な百合明学園。
…一つ困ったことができてしまった。
「…恋羽、頑張るぞ!なっ?」
「…」
灯真が話しかけても…。
「…恋羽ちゃん、頑張ったら恋羽ちゃんの好きな飴あげるよ?」
「…」
那智が話しかけても…。
「…恋羽?恋羽らしくないぞ?」
「…」
大地が話しかけても…。
「…男子だからやりたくないのは分かるが、恋羽がいなきゃ俺らはなにもできない」
「…分かってる」
類の言葉に少し…返事をするもすぐに顔は優れなくなってしまう。
俺は仕方なしに、恋羽に握られた袖から手を離す。
恋羽は必死に阻止しようと試みるも…、男の俺に勝てるはずもなく、呆気なく敗北。
「…恋羽、どーかしたのか?頭痛い?…それとも、」
俺は…しょうがなく裕貴の名前を使うことにした。
「…裕貴の好きだったハンドボール、嫌いになったか?」
「っ…!?」
驚きで目を見開く恋羽。
類たちは大人しく見守っている。
「…なにが嫌なの?俺たちとやるのが?それとも…」
俺が間を空けると、恋羽はシュン…としてしまう。
恋羽の身体は少し…震えている気がする。
「……不安なの。あたしは女子。女子の中で体力や能力が例えあったとしても…男子に比べれば…無能なんだから」
恋羽は練習中も…、顔色が優れないことがよくあった。
…男に混じってやっていることへの不安を…与え続けていたんだ。
「…早く気付いてやれなくて…ごめんな」
俺は…ぎゅっと抱きしめた。
泣きそうになりながら、俺にぎゅっと抱きついてくる恋羽。
嗚呼、こんなに女の子は小さいんだ。
…改めて俺は思い直した。
「…恋羽。俺たちは、恋羽を弱いなんて…無能なんて思ったことはないよ」
俺は静かに恋羽の耳元で話しかけた。
「…皆が優しいのは知ってる。邪魔になりたくなかった。…必死にやっても追いつかないって決めつけてた」
恋羽は半泣き状態。
周りは皆、苦笑い。
「…恋羽は強いよ」
大地が声を張り上げて言った。
恋羽は大地を見つめる。