ホロホロホロ…
先程から変わった鳥の鳴き声がどこからともなく聞こえてくる。
だが、それ意外において変わったところは一切見受けられない。
魔物が襲ってくるわけでもなく、かと言って、何かおかしなことが起こるわけでもない。
不思議なぐらいに静かだ。
「何故だ…。」
「やっぱり、何もないんですかね?」
森に慣れてきたクラリスがそんなことを言う。
でも、それではあの報告書との辻褄が合わない。
道に迷っただけ、という線も捨てられないが、ならば一つぐらい死体が見つかってもいいはずだ。
「何かおかしい。」
不審すぎるほどに。
ホロホロホロ…
「ルイス、そろそろ国境付近です。」
「ああ、分かっている。」
黒の国と白の国を隔てる国境線。
森の中にあるそれは何処にあるのかは曖昧だが、確実に存在している。
数十年前に約定を交わしたとはいえ、二つの国の関係は思わしくはない。
わざわざ国境線を越えて、事態を拗らせるのは賢くないため、引き返そうとした。
俺の地獄耳が“人の声”を聞くまでは。
「声がする。」
「声?俺には何も…っておい!!どこ行くんだ!ルイス!!」
確かに聞こえた微かな声に眉間にシワがよる。
馬を走らせ、声の聞こえたと思われる場所まで近づいて、そっと馬を降りた。
