「黒の住民に会ったの。あの格好はそれなりの地位にいる人。」

出会った時の彼の容姿を思い出す。



漆黒の髪と瞳。
整った顔立ちから感じる冷たいオーラ。私を見る目は軽蔑や疑念を含んだ目で。

そして、黒い軍服を身に纏ったその姿からは人を圧倒するような威圧を感じた。


腰には剣を携え、右胸には大きくディノワールの紋章。





あれは王家の関係者の証。


私は見つかっては一番面倒な相手に見つかってしまったんだ。




「私はその人に見つかってしまった。」



「ッ…。」



「やっぱり無理があったんだよ。こんな世界の狭間で誰にも見つからず、生き長らえようなんて。私は軽率だった。あの時は少し夢を見ていた。もしかすると、幸せに暮らせるんじゃないか?ここが私のいる場所なんだって。ティナには感謝してるよ、最初から最後まで私の味方だったこと。」



「シェリー…。」



「私なんかのためにずっと一緒にいてくれた。」



「やめて下さい。私は生涯あなただけと誓ったんです。」



「あなたは幸せになるべき人なの。」



「いやです!!!その先は言わないで!!」

涙を流すティアに、私も一粒涙が零れた。



今まで一緒にいてくれたあなたに幸せになって欲しいから、私は決断する。

最初で最後の命令。







「私の視界から消え、森の外で幸せに暮らしなさい。」



この空間がひどく静かに時を刻む。

目を見開き、アッアッ。と言葉を失うティアに涙腺が崩壊しそうだった。





これでいいのよね?
これでいいんだよね…。


自分が下した命令なのに、心が苦しい。




「…お、お願いです。かん、がえなおして、くれませんか?」


真っ赤になった瞳からはとめどめなく溢れる涙が痛々しい。



「だめよ、もう決定したの。」



「ですが!!シェリーはどうするのですか!!」



「私?私は今まで通りここで生活するよ。」


終わりが来るまで。ずっと。



「分かってるんですか!?黒に見つかれば、あなたは…あなたは…。」

私は宥めるようにティアに語る。



「私はね、報いなければならないの。これは当然の結果なのよ。私が生きているせいで多くの犠牲が出てる、今も昔も。」