吉井は自転車を取りに行くことなく、
まっすぐ校門へと歩いていた。
何も話さず、雨音だけを聞きながら、
校門を通り抜け、
まっすぐ信号まで歩いた。
信号を渡って、坂の上までくると、
「あのさ.......」と、
吉井が突然口を開いて、
ちらっと横目で吉井を見上げると、
吉井はまっすぐ前を向いていた。
「親父さんって、どんな人だった?」
えっ.........
吉井がぱっとこっちを向いたから、
目をそらして、下を向いた。
「どんな人って.......」
なんで、そんなこと聞くんだろう。
「言いたくなかったらいいんだけどさ」
「いや、別に.........
お父さんは.........そうだな........」
坂の上から、街中を濡らしている雨を見渡した。
そういえばあの日も、雨が降っていた。
小学校5年生の私と、
まだ0歳だった航太。
「お父さんは、大きくて温かくて、
優しいお父さんだった。
私.......よくお父さんにおんぶをせがんでさ。
お父さんの大きくて温かい背中が大好きだったんだ。
優しくて、いつも私のことを考えてくれていて........
それなのに」



