どこをどう走ったか覚えてない。気付けば降り出した雨に濡れ見知らぬ街をさ迷っていた。
すれ違う人々が振り返り、ずぶ濡れで夢遊病のようにフラフラ歩く私に冷たい視線を向ける。
「陸さん……」
東京になんて出て来なければ良かった。そうすれば、自分にお兄ちゃんが居ることも知らず、ばあちゃんと畑を耕しながらのんびりと暮らしてたはず。
貧乏で贅沢なんて出来なかったけど、あの頃の私はお腹の底から笑ってた……笑えてた。
でも今は……泣いてばっかり。
陸さんの為にも、私はここに居ちゃいけないのかもしれない。だって、想い続けていた彼女が戻ってきてくれたんだもんね。きっと今頃は幸せで一杯なんだろうな。
愛莉さんなら、ドジな私みたいに変な離乳食なんてチビちゃんに食べさせたりしないだろうし、立派にチビちゃんを育ててくれるよね。
なら、私も幸せな場所に帰ろう。ばあちゃんの居る島へ……
「都会はデンジャラス過ぎて疲れちゃった……」
そう呟き見上げたビルが涙と雨で滲んでいく。
でも、陸さんのことは忘れないよ。私の中では、あなたはお兄ちゃんではなく、いつまでもずーっと、愛しい人のままだから……
遠い平島から陸さんの幸せを祈っているからね。
そう決心したら、なんだか気持ちが楽になったような気がした。
すると今までどんよりと灰色に染まっていた空が一気に明るくなり、光の帯が濡れたアスファルトを照らし眩しいくらいキラキラと光る。
そう言えば、いつか陸さんが言ってた。私のいいところは底抜けに明るいとこだって。だから、いつまでも泣いてちゃダメだよね。じゃないと陸さんに嫌われちゃう。
「陸さん、もう泣かないよ」
私は笑顔で呟きタクシーに手を上げた。



