後ろ髪を引かれる思いで家を後にし港に急ぐ。そして、停留していた巡航船に乗り込もうとした時、私の名を呼ぶ声が聞こえ振り向くと、師匠がチャリンコで爆走してくるのが見えた。
「鈴音ちゃーん!ちょっと待ってー!」
息も絶え絶えにやって来た師匠が私に一通の白い封筒を差し出し思いもよらぬことを言ったんだ。
「……これ、鈴音ちゃんのばあちゃんから……預かってきた……ハアハア」
慌てて封筒を開けると一枚のクシャクシャの一万円札と手紙が出てきた。ソレを見た瞬間、涙腺が緩み涙が溢れ出す。
「ばあちゃん……」
ばあちゃんにとって、一万円は大金だ。一万円を儲けるのにどれだけ働かなくちゃいけないか……。なのに……そんな大切なお金を私の為に……
「あぁ~ん、ばあちゃーん、ありがとー」
号泣する私の背中を擦りながら師匠が手紙を覗きむ。
「その手紙、なんて書いてあるの?」
「あ、そうだ。えーっと……」
《鈴音、どんなに反対してもお前は東京に行くんだね。ばあちゃんは寂しいよ。
でも、鈴音が決めたのなら仕方ない。ばあちゃんは諦める。その代わり、行くからにはテッペンを目指せ!
決して弱音は吐くな!東京で一旗揚げてこい。餞別に一万円入れておくから成功したあかつきには数百倍にして返せ!
必ず返せ!絶対返せ!死んでも返せ!ばあちゃんから受けた恩は何があっても忘れるな!
以上、優しいばあちゃんより》
なんじゃこりゃ?完全にタカリじゃん!それにテッペンって……なんのテッペンだよ?
一気に涙が引っ込んだ。……心配して損した気分。
そして私はシラケムードのまま師匠に見送られいざ東京へと旅立ったのだった。