百物語

彼女がまわりにからかわれているのを何度か見た。

単なる遊びと思っていたが、違うのか?

「入学してすぐの朝会でイジメを禁止すると宣言していたのに、先生方は何をしていらっしゃったのでしょうか?」

丁寧で優しい口調がやんわりと俺の首にトゲを刺した。

彼女はただニコリと笑う。

「先生。私はこの学校が大嫌いです。」

俺が言ったのだ。

"イジメ禁止"見つけ次第退学。

俺の中でようやっと何かが固まり、言葉になろうとした瞬間彼女が動いた。

「失礼しました。以後気を付けます。」

深めに頭を下げると彼女は背を向けて歩き去った。

なにも言い返せなかった。

今日はその彼女と十年ぶりの再会。

俺はネクタイをしめなおし、待ち合わせの店にはいる。

そこには昔の教え子達の大人びた顔があった。

数十分ほど話しながら酒を飲んでいると、急な尿意に襲われた。

「少し席をはずすぞー」

そう一言断りを入れて、トイレに行く。

用を済ませ、俺が扉を開けると彼女がいた。

二十五歳にもなった彼女だが、なにも変わらなかった。

両手を足の前に揃え、姿勢よくピシ、と立つ。

そしてニコリと目だけ笑った。