あれは忘れもしない夏の日だった。

普段はとても大人しい生徒だった一人の女子生徒が俺にぶつかり、謝りもせずに立ち去ろうとしたのを注意したのが始まりだった。

ずっと黙り続ける彼女に俺はイライラしていた。

「言いたいことがあるなら言いなさい。」

普段ニコニコと笑っている彼女は黙って床を見つめ続けた。

「黙っていたら、なにもわからないだろう。」

さもなくばさっさっと謝れと言いたいのをグッとこらえる。

真夏の暑い廊下の上。

彼女は足の前に手を揃え、姿勢よくピシ、と立った。

そしてニコリ。と目だけ笑った。

「この学校はイジメを公認しているんですね。」

瞬間。

音が消えた気がした。

先程までの蒸し暑さがわからなくなるほど、体の血が一気に冷えた気がした。