僕の彼女は寂しい人。

今日も僕は彼女に会いに行く。

見慣れた扉の番号を確認して、中にはいる。

「どちら様?」

彼女はいつも通りの笑顔で頭を傾げる。

「物語を読む約束をしたものです」

僕はいつも通りの笑顔で彼女に語りかけた。

「そうなの?」

彼女はきょとんとしてまた頭を傾げる。

これが僕らの日常。

僕は毎日、彼女に同じ話をする。

二人の男女が出会って、ケンカしたり、笑ったり、泣き合ったり、愛し合う話を。

彼女はいつもその話を楽しそうに聞いてくれる。

時に頬を染めたり、時に怒ったり、時に涙を浮かべたりしながら。

必ず、それから?それから?と目を輝かせて聞いてくる。

とても共感できる女性と、頼りないのに見捨てられない男性。

彼女は自分のことのように聞き入った。

そしていつも「最後はどうなるの?」で終わる。

彼女はいつだって思い出してくれない。

自分の薬指にはめられた指輪の意味すら覚えていない。