百物語

俺は目に見えて嫌な顔をする。

授業は数学で俺の大の苦手分野だ。

俺がうんうんと唸っていると先生は更にイライラしたようで、声を荒げる。

「ちゃんと聞いてたのか?」

俺は更に慌てて冷や汗を垂らす。

視界の端には俺が片想いしている女子が笑っていた。

目が回りそうだ。

泡でも吹きそうな勢いの俺の隣から囁き声が聞こえた。

「…2x―6y」

俺は無我夢中で同じ言葉を復唱した。

「2x―6y!」

すると先生の顔が驚きと悔しさをかき混ぜたような顔をに変わった。

悔しかったのかその答を導き出す過程まで聞かれたが、その全ては救いの囁きが教えてくれた。

先生も諦めたようで次の式に取りかかり始めた。

俺は救いの主を見るべく、隣へ目を向ける。

あいつがいた。

のんきに頬杖をついて窓の外を眺めている。

━━こいつ頭悪かったんじゃなかったのか…。

「あの…!」

その時ふと思った。

俺はこいつの名前すら覚えていない。

あいつはこちらをちらりと見つめた。

「あ、あの…。さっきはありがと…」

彼女はきょとんとした顔をした。

そして少し照れ臭そうに目線を泳がせた。

「ど、どう…いたしまして?」

俺は少しだけ微笑むとすぐに後ろを向いた。