百物語

そいつは目立たない奴だった。

いや、ある意味では目立っていたのかもしれない。

そいつはいつも誰かとつるむでもなく、一人でいる奴だった。

休み時間にはいつも絵を描いたり、本を読んでたり、空を見上げてるような奴だった。

時折そいつを訪ねてくる女子もいたが毎日でもなかった。

つまり、その程度の女。

俺のクラスでは空気のような存在だった。

皆が目視できる空気。

そんな奴だった。

俺も深くそいつを気にしたことはなかった。

だが、二学期の前半で行われた席替えで何かが変わった。

俺の頭はお世辞にも良いとは言えないし、授業態度も胸を張って言えるが悪い。

そんな俺にあてがわれた席はもちろん先頭だ。

がっくりと肩を下ろし机に突っ伏す俺の隣に誰かが腰を下ろした。

あいつだった。

頭悪かったのか…。

その程度くらいにはそいつに気が向いた。

しかし、休み時間が始まった頃にはあっさり忘れてた。

そうして数日がたち、俺は隣の席が誰かを忘れた頃だった。

「うるさいぞ林!そんなに余裕があるなら次の問題といてみろ!」

後ろの席の奴と雑談してた俺に先生がそう怒鳴った。