百物語

僕はそっと彼女に口づけをした。

すると体の中心が暖かくなり、僕の体は消え始めた。

彼女の目が開く頃には僕は消えていた。

「優?」

時刻は夕暮れ。

私は彼の名を呼ぶ。

彼はまだ帰ってきてないらしい。

私は眠り姫病。

一度眠ったらすぐに起きられない。

だから起きたらすぐにケータイを見る。

液晶画面に表示された日付を確認するつもりだったのに、たくさんの履歴があるのに気がついた。

私は一つ一つ留守電を聞いていく。

その中で受け入れたくない一つの真実を知った。

一番最後に残ったのは彼のメッセージ。

数多くの罵倒の中で最も優しい声が私の耳に届く。

"おはよう"

私の目からはぼたぼたと大きな涙がこぼれた。

もっとたくさんの言葉があるのに、何でその言葉なの?

もっと言って欲しい言葉があるのに、何でその言葉なの?

何で私を攻めないの?

君は優しすぎるよ…。

私は泣きながら、一つの言葉を落とした。

「おはよう」