百物語

ケータイの向こうから聞こえる電子音。

音が途切れ、俺の耳に届いたのは、愛しい彼女の声の留守番電話。

僕の目からは多くの感情が混ざりあった雫が一つ、真っ赤な水の上に溶けていった。

"メッセージをどうぞ"

彼女の声が僕に話しかける。

僕は迷わず一言、メッセージを入れた。

そこで僕の意識は途絶えた。

その後、僕の葬儀は滞りなくすまされた。

一人だけ連絡はつかなかったけど、他の友人達も全員来てくれた。

皆、口々に彼女の悪口をいった。

「恋人が死んだのに見送りにも来ないなんて…」

「本当にいい奴だったのに、ひどい恋人だな。」

そんなことを言わないでくれ。

彼女は悪くない。

彼女は眠っているんだ。

僕は大声で訴えたが、誰にも声は届かなかった。

僕はどうやら幽霊になったらしく、誰にも気づかれない姿になっていた。

疲れきった僕は何日ぶりかに家に帰った。

ベットの上にはあの日と変わらずに彼女がいた。

僕はため息のかわりに笑って彼女の髪をとかした。

彼女の顔が心なしか、笑っているような気がした。