聖side


何言ってるんだこいつは…
正気なのか…

旗手の目を見ていて本気なことは伝わる。
だけど俺は旗手を好きにはなれない。
俺が教えるのは構わない。
だけど、こいつのためになるかと考えたら微妙だ。

じゃあなんで今俺はキスした…?

全部わかってる。ちゃんと言い聞かせたはずだ。
なのに頭の中で思っていることと行動が伴わない。
旗手といる俺は、いつもの俺と違う。


「旗手…だから俺は」

「言わないで!」


大きな声を出す旗手。
その声に少し驚いた。


「知ってます…センセイは先生だから。
だけど…」


旗手の悲痛な表情に、胸がいきなりズキっと痛む。

な、なんなんだ…
なんでこいつはこんなにも俺をかき乱す。


「私、センセイから愛を教わりたい…
その代わりなんでもほんとにします!
だから…お願いします」


深く頭を下げる旗手。

そんな頼まれたら…断れねぇじゃねぇか…
本当にお前はいいのかよ…


「……旗手、いいから顔上げろ」

「はい…」


大人しく顔を上げてくれた。

素直なんだか頑固なんだかわからない奴だ…


「なんでそんなに愛が知りたい?」


率直な疑問だった。


「それは…その…」


言葉を詰まらせてもじもじする旗手。
その姿を見て、何かに期待している自分がいた。

いや、待て…
自分からさっき突き放しておいて、何を期待してるんだ俺は!


「……す、好きな人がいるんですけど!
恋愛について何もわからないから教えて欲しいだけです!」


ははっ…なんだ、好きな奴いるのか…
って、なんで俺がショック受けてんだ。


「そうか…仕方ねぇな。
教えてやるよ」

「ほんとですか!?」


旗手がいきなりキラキラした目に変わった。

単純だなぁこいつ。

つい笑みがこぼれてしまった。


「わ、笑わないでください!」

「ははは!
まぁ、お前の本気さは伝わった。
明日科学準備室に放課後来いよ」

「科学準備室…?」


あぁ、そういや俺の担当言ってなかったな。


「俺は科学担当なんだ。
だから科学準備室は俺のもんなんだよ」

「そ、そういうことですか…!」


また変わって、今度はそわそわしだす旗手。


「なんだよ?
不満か」

「い、いや!そうじゃないんですけど…」


なんだ?
ハッキリしねぇ奴だ。


「言いたいことあんならハッキリ言え」

「あ、あの…
あそこに人体模型あるじゃないですか…」

「そうだが…それがどうかしたか?」

「えっと…」


もしかしてこいつ…!


「怖いのか?旗手」

「へっ!?
そ、そんなんじゃないです!//」


否定していても顔が赤いからバレバレ。

ほんとわかりやすい奴。
見てて飽きねぇ。


「気にすんなよ、人体模型なんか。
俺だけお前は見てりゃいんだ」

「えっ…//」


思ってもいなかった言葉を口走ってしまった俺。

な、何言ってんだ俺…!
好きな奴いるって言ってる奴に向かって!
やっぱこいつといると調子狂う!


「と、とりあえずだ!
明日放課後待ってるから来いよ」

「わかりました…!」


それだけ言って俺はその場を後にした。

はぁ…なんかすげぇ疲れた。

車を走らせて、急いで家に帰った。

それにしても…いつもと違うこの感覚。
なんなんだこれ…
こんな感情、女に対して思ったことねぇ俺が。

旗手…お前は、誰が好きなんだ?
誰を想ってあんな表情をする?

モヤモヤする頭。
なんでかわからないが、旗手のことがどうしても気になる。


「あいつは俺をかき乱す…悪女だ」


ポツリと車の中でそう言った。