泣いている私の背中を撫でながら誰かに電話をしているのがわかった。
少しすると車がきて私を抱き上げると
車へ乗り込んだ。
その間もずっとずっと私の背を優しく撫でて
「悪かった。ごめんな」耳元で謝る。
「お願い。もう家に帰りたい。1人になりたい」そうお願いするけど
「無理。それは聞けない」
膝にのせたままの私の背中を撫で続けるから
自分の中にわき出る黒い感情に押し潰されそうになり
声を出して泣いた。
飲み過ぎて感情が昂っているのがわかる。
わかるけれど悔しくて悔しくて
「もう、何なのよ…何でなのよ」
隼の胸を叩いて泣き続けた。
「私が何をしたのよ…」
泣きながら抗議していたけれど興奮し過ぎて息が苦しく
具合が悪くなってきた。
「結衣、大丈夫か?」
何も答えずぐったりとしながら泣く私に
「具合悪いか?落ち着いてゆっくり息をしろ」
大きな手で優しく背中を撫でつづける。
恨めしいはずのバリトンは何でだか私を落ち着かせた。
静かに車が停まり
ドアが開けられると隼は、私を抱いたまま車を降り歩き始めた。
あまりの具合の悪さに目を閉じていたけれど
そっと降ろされたのがベッドの上だということは目を閉じていてもわかった。
自分の家ではないことはわかったけれど、もう何かを考えることもしんどくて
何も考えずに眠りたい。
そして忘れてしまいたかった。
ベッドの横が少し沈み隼がいるのがわかった。
その後でヒヤツとした感覚が頬にあたり
傷を冷やしてくれようとしていた。
それでも、その傷がなぜ出来たのかと思い出しまた悲しくなる。
そっと髪を撫で
「結衣…ごめんな。俺達のせいだな。ごめんな」
悲しげなバリトンボイスが聞こえてきた。
そうだよ。私の楽しかった場所を返してよ。
言いたかったけど
あまりに悲しそうな声で言うから言えなかった。
「もうイヤ…」
そういうのが精一杯の訴えだった。
お酒を飲んでいた上に興奮した私は、知らない間に眠りについた。
