「結衣!」
目を閉じている私に
大きな足音と私の好きなバリトンボイスも聞こえてきた。
「結衣、わかるか?」
わたしはそっと目を開けるとうんと小さくうなずいた。
やっぱり隼のバリトンは私を落ち着かせる。
震える手を隼の方へのばすと
その手を握ってくれた。
「黒埼が気づいてくれて助かった。恩にきる」
そう言ったあと
「もうその手いいから」
聞こえてきた言葉に握られている手を戻そうとしたら
「結衣じゃねぇ」
グッと握り返してくれて
握られていたもうひとつ手が行き場を失くしたから黒埼さんが握ってくれていた手のことだったんだと思った。
だからそっちの手も隼の方へ伸ばすと
繋いでいた手まで離され不安になった瞬間
身体の下に手が入りこみそのまま私を抱き上げてソファーへと座った。
「結衣、我慢しなくていい。泣いていいから」
優しいバリトンが何より私を安心させてくれたから…
両方の手で隼に抱きつき少しの間そのまま泣いた。
呼吸がうまく出来なくて咳こんでも、咳き込んでいなくても
そっと私の背を撫でてくれる隼の手が安心をくれた。
