男はナイフを右手に持ったままどこかに電話をかけ始めた。
首元からナイフがなくなってもギュッと抑えつけらている首が力強くて息がうまく出来なくて苦しい。
そこから逃れようと男の手を掴むけれど
もがくたびにグッとその手は強く抑えつけられ意識が霞んでいく。
いやだ…なんでこんな事…
遠くなっていく意識の中で靴の踵で壁を小さくコンコンと何度も蹴った。
お願い黒埼さん気づいて…
男の電話から僅かに女の人の声が聞こえてくるけど朦朧としていて会話までわからない。
車が止まった?え?話してる?
あぁ…もうダメかも…。
壁を蹴っていた足も動かなくなったとき
「何しとんじゃ」
そんな声が聞こえてきた気がしたけれど
私はそのまま意識を手放した。
