眩しい光が瞼の上から私の目に差し込む。
どこからか、鳥のさえずりが聞こえてくる。
ここはどこだろう。
ふわふわしていて、とても暖かい。
手を伸ばすと、なにか柔らかいものに指の先が触れた。
この時間、この空間が異常なくらいに心地良い。
ずっとこのままでいたい、そう思った。
ーーしかし5秒後、私の願いは虚しく砕かれた。

私の耳元で、いきなりアイドルグループの歌が流れ出す。
それも、かなりの大音量で。
「うわあああっ⁈」
私は言葉の通り飛び起きる。
周りを見渡すと、音の原因はすぐにわかった。
私のスマホだ。
「ヴー、ヴー」とバイブレーションと共に唸っている。
寝ぼけ眼で画面を見ると、「*目覚まし時計* 6:00」と書かれている。
安堵と嫌悪の混ざった溜息を漏らしながらアラームを止める。

「今日も学校かぁ」
嫌だな、という言葉は心のポケットに閉まって、大きく伸びをした。
カーテンと窓を開けて朝の空気を吸い込む。
澄み渡った新鮮な空気が私の体中を巡る。
窓を閉めてからもう1度伸びをすると、私は自分自身におはようと挨拶した。

日課を済ませた私は部屋を出た。
私の家はアパートなので、全ての部屋が1本の廊下で繋がっている。
その廊下の途中に玄関とキッチンがあって、リビング以外は全てドアがついている、至って普通の間取りだ。

脱衣所へ向かい、洗面台の前に立つ。
水をピチピチと頬に叩きつけ、その冷たさを慣らしてから顔全体に水を当てる。
数秒、顔を覆った手を上下に動かして顔から離す。
それを何回か繰り返したら、今度はタオルで顔をこすった。
鏡に私の輪郭がくっきりと映る。
ちゃんと脳が目覚めたみたいだ。

一度部屋に戻り、制服に着替えてからキッチンのそばにあるテーブルに行った。
テーブルの上にはいつも通り、調理パンがコンビニの袋に入ったまま、無造作に置かれていた。
私はパンを食べながら冷蔵庫を開けて牛乳を取り出した。
コップに注いで、口に溜まっていたたパンと一緒に流し込む。
パンも牛乳も不味いわけではない。
だけど私は、この食事が嫌いだった。
毎日毎日、機械が作ったパンを1人で食べる。
会話もなく、黙々と食べなければならない。
今まで仕方ないと済ませてきたが、今日はやけに苦痛だった。

短い食事を終えた私はリビングに入る。
「おはよう」
無人の部屋に大きく挨拶をした。
冷蔵庫の低い唸り声だけが耳に入ってくる。
私はテレビの電源をつけて、ニュースをぼんやりと眺めていた。
アナウンサーたちが笑顔で視聴者に挨拶をしている。
「では、今日の天気予報です」
正確にはテレビが発した音だけど、この家に私以外の人の声が響いたことに安心する。
そんな自分を変だと馬鹿にする私が心のどこかにいた。

今日の授業と持ち物を確認する。
スクバの外ポケットにスマホを入れて、ハンカチとティッシュで盛り上がったスカートのポケットを上からポン、と叩いた。
通学用のローファーを履いた私は、
「いってきます」
と部屋に挨拶をして家を出た。

いつも通りの朝。
普段と変わらない朝なのに、私は強く、孤独を感じた。
寂しいな。
この言葉をしまい込むのは何回目だろうか。
ポケットはギュウギュウに膨れ上がっていたけれど、無理矢理詰め込んだ。

学校までの電車は10分に1回くらいのペースで駅にやってくる。
だから、1本や2本なら乗り遅れても全く問題ない。
私がいつも乗っている時刻の電車までかなりの余裕があった。
けれど私は、いつの間にか駅に向かって走り出していた。
人の波を押しのけながら全力で走る。
駅に入る。
改札口を通る。
いつもと同じ行動。
それを行う速度と心の表情だけが違った。

ホームまで走り込むと、次の電車の来る時間をチラッと確認した。
いつもより2本早い、7時16分発の電車まであと2…いや、3分だろうか。
私は視力は悪くない。
それなのに視界がぼやけていて、私は時間を確認することができなかった。