「母ちゃん…」
一人とぼとぼと歩きながら後から後から零れ落ちる涙のせいで、視界がぼやける。
おかげで身体が思うように、真っ直ぐ歩くことが出来ない。
それでも通りゃんせの歌を耳にしながら、足だけは絶対に止めることはしなかった。
この歌は…、
私をもう一度、母ちゃんのもとへと呼び寄せてくれる歌なのだろうか?
それとも葬送曲(レクイエム)なのかな?
その答えはお参りをした後、分かる---
『♪こわいながらも 通りゃんせ 通りゃんせ♪』
もう大分離れたからなのか、歌声が小さくなっていく。
だんだんと遠ざかるレクイエムの歌が暗闇に迫る藍色の空のせいか、私はもう母ちゃんに抱きしめられることはないのだと…、そう予感した。
「母ちゃん」
ポツリとこぼしたその言葉は、そのまま静かにひっそりと音色を奏でていた鈴虫の音と共に消える---
【多恵 SIDE END】



