「小銭入れなんて、忘れちゃダメですよ」

私は、そう言ってヴィトンの小銭入れを剛志に渡す。

「ごめんね、ありがとう」

剛志は、そう言って私の手から小銭入れを受け取った。

「好江は?」

「ああ、今、宿まで送ったから」

「そうですか・・」

「うん・・・」


しばし沈黙。私は、頭の中に用意していた訳ではないが、突発的に剛志に言った。

「あの・・この忘れ物って、わざとですか?」

剛志は、しばらく無言のまま、大きくため息をつく。

そして

「はい。わざとです」

そう言った。

「目的はなんですか?」

と私は聞く。なんとも可愛げのない言い方だったと後に剛志に言われたのが、この一言だ。

剛志は、なんのためらいもなく

「なぜだか、2人で話をしてみたかったから」

と、言った。

「お茶でも飲みますか?」

そう言って私は剛志を部屋に入れた。