良明の誕生日だった2月、私は良明が前から欲しがっていたスキーの板を探していた。インターネットで調べたりスポーツ洋品店に探しに行ったり・・・

そして、そのスキーの板は東京にある大型スポーツ店で1点だけ展示品として飾られている事を知った。

私は、久々に東京まで車を飛ばす。

そして、そのスポーツ用品店と交渉し、その板を10万で譲って貰う事になる。

この板はメーカーが作ったものの、上級者でも使いこなすのに難しい板だったため、同型の板でも、このサイズのものは廃盤になったという数に限りがある板だったのだ。

私は知り合いから安く譲り受けたと嘘をついて良明にプレゼントした。

もし、10万もしたと聞いたら、良明は受け取らないと思ったからだ。

初めは遠慮しながらも、板を目の前にした時の良明の顔は今でも覚えている。そして、その時、良明に万遍の笑みで「ありがとう」と言われた一言が、その時の私には、全てを忘れ去るほど、嬉しい事だったのだ。

その夜、荒木から電話があった。

荒木とは、新潟に来てからも、ちょくちょく電話で話をしていた。

「今日ね、良明にスキーの板をプレゼントしたんだぁ!

すっごく嬉しそうでさ!ほんと!探した甲斐があったわ~!めっちゃ嬉しそうだったな~!なんか幸せになっちゃった!」

私は、良明の話をご機嫌で荒木に話す。

「幸せだねぇ、いいなぁ~・・
あ、でも、また金に困ったら、いつでも俺のとこにおいで。なんちゃって!」

荒木は冗談っぽく私に言った。

「もう業界には関わらないよ。もうお世話になることもないと思う。私、頑張るんだ。荒木さん、まじ、いつも、話聞いてくれて有難うね。荒木さんは、私の恩人だもんね。粗末にしたら罰あたるね!」

「戻る必要がなければ戻らなくていいんだよ。この業界はそういう業界だからさ。俺も、あゆみちゃんに稼がせてもらったから、そういう意味では有難うなんだよ」

荒木は最後に「もうこっちの世界に戻ってくるなよ!」そう言った。