良明には3日に1回くらいのペースで私から電話をかけた。さすがに良明から私にかかってくることはなかったし、良明の電話にキャッチが入れば、私は、「またね」と電話を切られた。
まだまだ良明のキャッチの相手には勝てる存在ではなかった。

でも、ある日、電話で話していた時の事、私は、思い切って良明をデートに誘った。
良明は何の違和感もなく「いいよ」と言ってくれた。

そして、翌日、良明の専門学校が終わった後に、待ち合わせをし2人で池袋のジョイポリスに行き、食事をした。

その時のジョイポリスの入場券は、その日の日付を書き込み、私は自分の中から良明と言う存在が消えるまで、宝物として持ち歩いていた。

その宝物は、この日から10年近い年月、お財布の中に入っていたと思う。

それを思い出すと、私の中で良明と言う存在は、無意識の中にも、自分では計り知れないほど、大きな存在だったのかもしれない。

しかし、このデートの帰りに、私は良明から予想もしていなかった話をされた。

「俺ね、今月の3月に、田舎に帰る事になったんだ」

私は、「そうなんだ」と言いながらも、酷く動揺していた。

確か良明の実家は新潟。新潟に帰ると言う事は、もう、こうして気軽に会うこともなくなると言う事。遠い場所に離れてしまうと言う事。

これが今2人、恋人同士ならば、いつでも電話で話せるし、会いに行っても違和感はない。

でも今の私たちは、恋人ではない。

良明と離れてしまう、その時間は、すぐそこに迫っていた。